竹のカスケード利用で健康・環境に優しい素材が誕生 大学発の注目研究

大学発

九州工業大学工学部応用化学科の坪田敏樹准教授らの研究グループは、竹の加工工程をうまく利用して、キシロオリゴ糖や活性炭などを段階的に製造していく「竹のカスケード利用」の研究を進めている。竹の新たな活用法を確立することで、無秩序に拡大する竹林による「竹害」の解決を図るとともに、競争力の強い産業の創出を目指す。

日本では従来、竹林は主にタケノコを生産するために管理されてきた。中国産など安価なタケノコの輸入量が増大するにつれ、生産者の収益は悪化(2005年にはタケノコの輸入品市場占有率は92%に達した)。それに伴い、放置される竹林が拡大していった。

西日本、特に九州に竹林は多く、林業をはじめ、農地や住宅への悪影響が深刻化している。さらに、生態系の単純化が環境破壊につながることや、根の浅い竹の増加によって土壌の水分保持力が弱くなり、自然災害が起こったときに被害が大きくなることも懸念されている。こうした竹害は年々広がっており、竹の有効活用に関する研究は大きな課題の一つとなっていた。

約10年前、電気二重層キャパシターという蓄電デバイスの電極用炭素材料の研究をしている坪田准教授のもとに、福岡県から竹の活用法に関する相談が舞い込んだ。「セルロースが電極用炭素材料(活性炭)のもとなので、竹の繊維でもできないことはない」と考えたのが、研究の始まりだったという。実際、竹から活性炭を作ることはできた。しかし、コストは割高となった。そんなときに偶然出会ったのが、佐賀大学農学部の林信行教授だった。

林信行教授は、粉末化した竹を加圧熱水処理して得られるエキスからキシロオリゴ糖を取り出す研究を行っていた。竹には、「キシラン」と呼ばれる多糖類が含まれている。キシランは、キシロオリゴ糖やキシリトールという甘味料の原料となるキシロ―スの材料となる物質だ。それぞれ、腸を整える働きや虫歯の予防効果がある健康素材として知られている。竹を水に加えて圧力鍋のように密封して160~220℃で加熱すると、キシランが加水分解して、水に溶けた状態のキシロオリゴ糖を取り出すことができるというしくみだ。

竹のカスケード利用イメージ(坪田准教授提供)

一方、“圧力鍋”からは竹の残渣も取れる。連続遠心圧搾脱水、加熱炭素化賦活という処理を経てできるのが、坪田准教授が必要としている活性炭だ。「活性炭の製造コストが、キシロオリゴ糖と活性炭を取り出すための“共用コスト”になったことで、価格が下がった」と、坪田准教授は振り返る。また、“圧力鍋”の処理で、竹に残留しているカリウムやケイ素は除去され、その結果、高品質なバイオ燃料として利用できる可能性が高いこともわかった。

興味深いのは、活性炭の活用法だ。坪田准教授は、電気二重層キャパシター電極用炭素材料だけでなく、医薬品や食品原料、土壌改良剤といった吸着剤としての活用も視野に入れている。用途が広がれば、コストはさらに下がる。「表面の孔の大小によって炭の吸着特性は変化するが、温度など条件を変えることで表面積をコントロールできることがわかってきた」と、坪田准教授は解説する。吸着したいターゲットに応じた活性炭が作れるようになるかもしれない。

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最も付加価値の高いキャパシターの電極用炭素材料としての活用については現在、企業と連携しながら携帯バッテリーの実現化に向けた研究が進められている。「竹紙や竹細工などの需要拡大を見込むのが難しいいま、キーワードとなるのは“付加価値”になるだろう」と坪田准教授は話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。