河内晩柑のオーラプテンが認知症を予防 愛媛県の産学官、機能性表示食品開発目指す

地域発

愛媛県の特産柑橘である河内晩柑の果皮に多く含まれる機能性成分「オーラプテン」に、認知機能の維持・改善効果があることがわかった。同県の産学官連携で推進してきた研究の成果で、2017年8月には、認知症機能の維持・改善効果とあわせて、河内晩柑果皮入り飲料品の製造方法に関する特許出願が行われた。今後、さらなる研究を進め、機能性表示食品としての商品化を目指す。

【リンク】愛媛県:河内晩柑果汁飲料の認知機能に関する特許出願について

柑橘王国として知られる愛媛県では、48種類の柑橘類が生産されている。河内晩柑は5番めに多く、2017年度の生産量は約6,000tで日本一となっている。河内晩柑は和製グレープフルーツといわれ、苦味のないさっぱりした味が特徴だ。

2017年11月17日(金)に都道府県会館(東京)で開催されたプレス説明会のようす

愛媛県産業技術研究所、松山大学、愛媛大学、えひめ飲料は、2014年から県産柑橘類の機能性の探索などの共同研究を進めてきた。松山大学薬学部の天倉吉章教授が県内の柑橘類20種類を分析した結果、河内晩柑の果皮に香り成分で抗炎症作用の強い「オーラプテン」が最も多く含まれることが判明した(濃度は2番めに多いハッサクの約3倍)。

その後、同大同学部の古川美子教授が炎症モデルマウスの脳に対する河内晩柑由来オーラプテンの効果を検証した結果、中枢で免疫を担当していて炎症状態のときに活動的になる「ミクログリア」という細胞の活性化が抑制されることがわかった。これは脳内炎症が抑制されていることを意味し、「脂溶性の低分子であるオーラプテンは、脳関門を通過して、直接脳の神経細胞に作用する可能性が高いだろう」という、古川教授の試験前の仮説が証明される結果となった。

モデルマウスによる実験では、果皮だけでなく、果汁でも同等の結果が得られるとわかった。河内晩柑果汁を1日500ml飲むことで、ヒトの脳に対する抗炎症作用が得られるだけのオーラプテンが摂取できると見込まれる。

実際に、愛媛大学附属病院抗加齢予防医療センターでは、ヒト介入試験で良好な結果が得られている。試験には、同医療センターの抗加齢ドック受診者で、明らかな認知症がない82人(男性27人、女性55人、年齢は71歳±9歳)が参加した。なお、試験期間中は、河内晩柑果汁500mlではなく、果汁125mlに果皮粉末を加えてオーラプテンの量が1日の必要量になるように調整されたドリンクが用いられている。500mlでは糖質過多が懸念されるからだ。

オーラプテンが6mg含まれたドリンクを飲む群と、0.1mg含まれたドリンクを飲む群にわけて、10単語想起テストを中心とする5つの課題で構成される「MCI(軽度認知障害)スクリーン日本語版」という検査法と、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などをカバーする「MMSE」という検査法を用いて、参加者の脳の状態を測定した。なお、検査は、初回と初回から24週間後の2回実施された。

試験の結果、オーラプテンが6mg含まれているドリンクを毎日飲んでいたグループは、10単語想起テストの成績が6.3±3.0%、MMSEが1.6±1.8%改善していたのに対し、0.1mg含まれたドリンクを飲んでいた群は、それぞれ2.4±2.3%、0.8±1.1%悪化していた。血液検査では、いずれにも異常は認められなかった。

これらを受けて、試験を担当した伊賀瀬道也医師は、「オーラプテンを多く含む河内晩柑の果皮に認知機能低下を予防する可能性があることが明らかになった」と結論づけている。また、介護の原因疾患として認知症が多くの割合を占めるいま、MCIの早期発見、早期治療の重要性も指摘された。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。