アスタキサンチン、慢性閉塞性肺疾患”COPD”を抑制!水産資源を活かした予防・改善策を 大阪市大

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大阪市立大学医学研究科の浅井一久准教授らの研究グループは2019年12月、アスタキサンチン摂取による慢性閉塞性肺疾患(COPD)抑制効果を報告した。抗酸化能を高める転写因子の発現に、アスタキサンチンが作用していることが実証された。日本の水産資源を活用したCOPDの予防・改善策の確立が期待される。

大阪市立大学医学研究科の浅井一久准教授らの研究グループは、アスタキサンチンの機能性について2017年から研究を進めてきた。アスタキサンチンは、カニ・エビ・サケなどに豊富に含まれるカロテノイドの一種。国内外の研究で、抗酸化作用・抗炎症作用・抗疲労作用があると報告されている。日本では現在、アスタキサンチンを主成分とするサプリメントなどが開発されている。

アスタキサンチンによるCOPD抑制効果が発表されたのは、2019年12月のこと。喫煙が主因となって発症するCOPDは、WHOが世界の死因第3位に挙げている治療の難しい病気の一つ。禁煙など、まずは予防が重要となる。浅井一久准教授らは、2019年8月に大豆イソフラボンの摂取によるCOPD抑制効果を発表したばかりで、今回の報告は食品摂取によるCOPDの予防・改善研究の第2弾の成果となる。

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大豆イソフラボンやアスタキサンチンを研究対象とした背景には、2017年に発表された浅井准教授らの研究成果があるという。研究では、身体運動が「Nrf2」という抗酸化能を高める転写因子発現を促し、COPD予防や治療に役立つ可能性が明らかにされた。浅井准教授によると、「現在、Nrf2の発現増強剤について研究している。アスタキサンチンのNrf2発現活性化作用はすでに報告されているが、COPDの原因である肺気腫の抑制効果は明らかにされていなかった」とのことだ。

アスタキサンチンの摂取によるCOPD抑制効果は、マウスを用いた動物実験で検証された。アスタキサンチン摂取・喫煙群(8匹)と通常エサ摂取・喫煙群(8匹)、アスタキサンチン摂取・非喫煙群(8匹)と通常エサ摂取・非喫煙群(8匹)の計4群にマウスを分類。アスタキサンチン摂取群のエサには、エサの総重量の0.02%のアスタキサンチンを加え、喫煙群のマウスには毎日60分間、タール量28mgのタバコの煙を吸わせた。なお、エサは自由に食べられる環境となっている。

12週間後、マウス肺におけるNrf2と抗酸化たんぱく質の発現量を観察した結果、アスタキサンチン摂取・喫煙群のNrf2と抗酸化たんぱく質の発現量は、通常エサ摂取・非喫煙群よりも有意に高いことがわかった。

気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞(浅井准教授提供)

肺組織内の炎症を示す肺胞内の白血球数と、COPDを引き起こす肺気腫の程度を示す肺胞の大きさも、大豆イソフラボン摂取によるCOPD抑制効果を検証した前回の実験と同様に測定された。その結果、アスタキサンチン摂取・喫煙群では、肺胞内の白血球数が通常エサ・喫煙群よりも有意に低く、肺胞の大きさは非喫煙群と同程度だった。

アスタキサンチンの投与で肺胞のダメージが軽減(浅井准教授提供)

「アスタキサンチンの摂取が、COPD患者の肺気腫の進行を抑制する可能性がある。COPDの治療に用いられている気管支拡張剤は根本的な治療ではなかった。アスタキサンチン摂取によるNrf2発現増強は、COPDの新たな治療戦略になり得る。そのためには、臨床データなども必要となる」と、浅井准教授は研究成果を解説する。

日本では近年、過去の高い喫煙率を理由としてCOPDによる死亡者が増加中だ。国は地方自治体と連携してCOPD対策に乗り出している。COPDの予防・改善効果が明らかにされたアスタキサンチンは「海のカロチン」と呼ばれ、水生生物の中でも海洋性生物から比較的容易に見出されている。日本の豊かな水産資源を活かしたCOPD対策への期待が高まることになりそうだ。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。