カミツレの葉・茎から高活性フェノリクス抽出 身近なハーブから発見された高尿酸血症改善作用

大学発

カモミール成分から痛風をはじめ、腎臓病や脳卒中、心筋梗塞などの危険因子である高尿酸血症の改善効果(血中尿酸値低下作用)が見出された。摂南大学薬学部の田中龍一郎講師らの研究グループは、新たに効能が見つかった成分を含むサプリメントやお茶の開発など、実用化を目指している。

カモミールは、和名で「カミツレ(加密列)」と呼ばれるキク科の植物。ヨーロッパ、アラビアでは古くから、その花の香油成分を利用してきた。

今回の研究は、これまで注目されていなかったカモミールの葉や茎に多く含まれる成分の薬理作用を詳細に検討し、痛風の直接要因である尿酸の体内における産生を抑制するキサンチンオキシダーゼ(XOD)阻害作用を見出したものだ。尿酸値の上昇は「痛風腎」として知られる腎臓障害の原因でもあり、間接的には脳卒中や心筋梗塞の発症にも繋がるとされる。

カミツレの研究を続けている摂南大学の学生たち

DNAやRNAといった核酸の構成成分であり、体を動かすときのエネルギー供給に不可欠であるプリン体という物質が分解されてできるのが尿酸だ。過剰に産生されたり排泄される量が減少したりすると、尿酸が体内に蓄積して高尿酸血症となる。その結果生じるのが、痛風や腎機能低下である。バランスの悪い食事や過度のストレスといった生活習慣のほか、遺伝などが原因で高尿酸血症になるとされる。

現在、高尿酸血症に有効な優れた薬が出ているが、問題がないわけではない。服薬を続けると、腎臓がダメージを受けることがあるのだ。田中講師によると、「”XOD阻害”で尿酸の生合成を抑制し、血中尿酸値は下がっていくが、腎臓や肝臓への負担はそれなりにある。奨励される食事療法と適度な有酸素運動はもちろん、安価で安全性の高いハーブなどへの期待は高まっている」と解説する。

「逆境に耐える力」「逆境で生まれる力」とは、カミツレの花言葉だ。田中講師は、高尿酸血症の改善に役立つ天然物の探索を続けてきた。「私自身の尿酸値が高かったこともあって研究をスタートさせた」と笑顔で話す田中講師が見出したのが、カミツレの優れた薬効だった。試行錯誤を繰り返しながら新たな発見にたどり着いた様子は、カミツレの花言葉そのものだ。

カミツレの葉と茎にXOD阻害活性があることがわかった

田中講師は2010年頃から、痛風の病態モデルマウスを使ってXOD阻害活性のある生薬やハーブの研究を進めてきたが、簡単な仕事ではなかったという。尿酸値には日内変動があり、ストレスによっても値は大きく変化する。意図的に高尿酸血症状態にした後、麻酔や開腹手術で強いストレスを与えたマウスの”血中尿酸値”を正確に測定するのは容易ではないのだ。

「モデルマウスやラットの血清尿酸値は報告ごとに大きくバラついている」と田中講師が解説するとおり、従来法の煩雑さや精度については、ほかの研究者の間でも議論となることがたびたびあるという。

「既報データを精査していくと、高尿酸血症に有効といえる機能性食品やサプリメントは存在しないのではないか」と話す田中講師は、「改良HPLC-UV法」という血中尿酸値の超高感度検出法を開発した。マウスの尾静脈からストレスを与えることなく無麻酔で微量の血液を採取して”血漿尿酸値”を測定するものだ。素材の経口投与による効果を高い精度で評価することができるという。

「いくつかの既存の生薬を対象に、これまで知られていない新たな効能として高尿酸血症に対する予防・治療効果の可能性について探索的な検討を進めてきた。薬効が認められた生薬原料であっても、産地によって効果が左右されるなど、検討は必ずしも平坦なものではなかった。従来の方法では、精度の高い測定が困難であったことと、原料の品質が一定でないことから、様々な研究機関での検討結果の信頼性そのものが疑問視される問題もあった」と、田中講師の苦戦は続いた。

転機は2014年に訪れた。摂南大学には、約1500種を超える多様な有用植物が管理される附属薬用植物園がある。開園時からの温室を建て替えようというタイミングで、植物園を管理している担当の先生から「この機会に身近な植物も観てみませんか」という提案を受け、田中講師は改良HPLC-UV法とXOD阻害活性を指標とした23種類のハーブのスクリーニングを実施した。

その結果、カミツレの茎と葉のXOD阻害活性が最も高く、アロプリノールという薬の1/3程度の効果があることがわかった。また、単離された有効成分はフェニルプロパノグルコシドと呼ばれる桂皮酸の配糖体で、血中移行に優れていることも確認された。

「有名なハーブの成分分析や薬効を再考する必要はないという先入観はあったが、学内という身近なところから高活性物質が見つかって驚いている。カミツレ由来のフェノリクスは熱に強く、お茶として飲んでも効果が期待できる。腎保護作用なども見ていきたい」と田中講師は話している。

カミツレの新たな薬効を見出した田中講師(左)

田中講師は現在、生まれながらにして血中尿酸値が高いカイコ(油蚕)を用いて血中尿酸値の変動を高精度で測定する手法を開発した。また優れたXOD阻害活性のある素材の探索を続けるとともに、体内においてどのように吸収され、代謝、排出されるか、カイコ以外にもマウスなどの動物モデルを利用した研究を実施している。安全性や腎保護作用など、カミツレ成分のさらなる検討も進めていく方針だ。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。