ナマコ煮汁に水虫原因菌“白癬菌”の増殖抑制効果あり!廃液の有効活用で資源保持と収益確保を両立

地域発

乾燥ナマコの加工の過程で廃棄されてきたナマコの煮汁が、水虫の改善に役立つかもしれない。弘前大学大学院医学研究科の中根明夫特任教授は、ナマコの煮汁に水虫の原因菌である白癬菌の増殖抑制効果があることを2018年に発表した。中国における日本産乾燥ナマコの人気の高まりを受け、青森県ではナマコの漁獲量が急増している。一方で、資源の枯渇を懸念する声も上がっている。未利用だった煮汁の活用は、資源保持と収益確保を両立させる手段の一つとなる可能性を秘めている。

弘前大学のある青森県は、全国2位のナマコの漁獲量を誇る。中国における日本産乾燥ナマコの価格高騰に伴い、青森県のナマコの漁獲量は、1988年の約223tから2012年の約1200tに急増した。一方で、ピークだった2006年の約1600tと比べれば漁獲量は縮小している。青森県で漁獲されるナマコの小型化や減少が原因として挙げられており、乱獲による資源枯渇が指摘されている。そのため、ナマコを余すことなく有効利用する方法が検討されてきた。

海底のナマコ(青森市水産振興センター提供)

研究対象の一つが、乾燥ナマコを加工する工程で大量に出るナマコの煮汁だ。弘前大学大学院医学研究科で感染症予防について研究している中根明夫特任教授は2010年以降、ナマコの煮汁の抗菌作用の検証を進めてきた。

中根特任教授によると、「ナマコの有効活用法を模索していた弘前大学農学生命科学部の渋谷長生教授(現在は名誉教授)から依頼を受けて、ナマコの煮汁の抗菌効果を分析したところ、水虫の原因菌である白癬菌に対して抗菌効果があるとわかった。2018年に青森県産業技術センターからナマコ煮汁を提供してもらい、抗菌効果を改めて見ていった」とのことだ。

白癬菌に対する抗菌効果は、培養実験で検証された。ナマコの煮汁80 µlを染み込ませた直径8mmの培養皿と、蒸留水を染み込ませた同サイズの培養皿で白癬菌を培養。5日後に、阻止円の直径を測定した。阻止円とは、成分の効果で菌が繁殖できなかった部分のことだ。その結果、蒸留水を染み込ませた培養皿では阻止円が形成されなかったのに対し、ナマコの煮汁を染みこませた培養皿では、平均19.6mmの阻止円が確認された。

「ナマコの煮汁によって白癬菌の増殖が強く抑制されることが改めて確認された。抗菌効果をもたらしている成分を調べたところ、“ホロトキシン”というサポニンの作用だった。ナマコから抽出されたホロトキシンによる白癬菌の増殖抑制効果は1969年に発表され、水虫薬として商品化されている」と、中根特任教授は実験結果について解説する。

水揚げ後のナマコ(青森市水産振興センター提供)

一連の実験では、ナマコの煮汁にも白癬菌の増殖抑制効果があることが証明された。中根特任教授は、「水溶性であるホロトキシンの性質を踏まえ、水虫対策の塗布剤や入浴剤として活用できるのではないか」と話している。

ナマコは海底の浄水機能を担っていると考えられており、減少による水質悪化が懸念されている。海を守る重要な役割を担っているものの、ナマコの生態は未解明で資源量の把握も難しく、乱獲による減少には気づきにくいそうだ。廃液となっていた煮汁など、“いまあるもの”をうまく活用できれば、乾燥ナマコの増産以外でも漁業者の所得向上は可能となる。天然資源の維持と経済の発展の両立をかなえるために、中根特任教授は研究を続けている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。