能登地域の魚醤油“イシル”のペプチドに血圧上昇抑制作用!小規模生産者らとともに認知拡大目指す

地域発

イシルの消費拡大へ。石川県工業試験場の道畠俊英研究員は、能登地域の伝統食で日本における3大魚醤油の健康機能性について研究してきた。スルメイカを原料とするイカイシルの血圧上昇抑制作用を明らかにすると、顆粒化と錠剤化にも成功。現在、イシルを原料としたサプリメントの開発や、イシルの高品質化が進められている。能登地域の魚醤油生産者らが設立した「能登いしり・いしる生産者協議会」とともに、イシルの新たな用途を提案していく。

「イシル」は、石川県能登地域で生産されている魚醤油。原料がイワシの身ならイワシイシル、スルメイカの肝臓ならイカイシルと呼ばれている。現在、イシルは年間に約220t生産されており、日本において最も多く流通している国産魚醤油の地位にあるものの、消費量の減少傾向は続いている。魚醤油を使用するエスニック料理がブームとなった1990年代には年間約300tあった生産量は、30%程度縮小しているのが現状だ。

石川県能登地域で生産されている魚醤油「イシル」の仕込み桶

イシルの消費拡大を後押しするために、健康機能性の解明に乗り出したのが石川県工業試験場の道畠俊英研究員だ。「1992年に山形で開催された魚醤文化フォーラムの登壇準備として、イシルの特性に関する情報を集めた。そのさい、イシルの機能性が発表されていないことがわかり、研究に着手した」と、道畠研究員は当時のようすを振り返る。

道畠研究員が注目したのは、イシルの血圧上昇抑制作用だった。道畠研究員によると、「イワシの加水分解物から得られたバリンとチロシンが並んだ形のペプチドが強い血圧上昇抑制効果を持つことは報告されているが、イカ由来については報告がほとんどなかった。研究では、イカイシルを対象として血圧上昇抑制作用を調べていくことにした」とのことだ。

2012年、イカイシルの血圧上昇抑制作用は、高血圧自然発症ラットを用いた動物実験で検証された。イカイシルから抽出したペプチド溶液を経口投与する6匹、バリン・チロシンペプチド溶液を経口投与する6匹、生理食塩水を経口投与する6匹の3群にラットを分けて、収縮期血圧の推移が測定された。

イカイシル抽出ペプチドとバリン・チロシンペプチドの投与量は、いずれもラットの体重1kgあたり10mgとなるように調整した溶液を0.5ml単回経口投与した。なお、血圧は投与直後・2時間後・4時間後・6時間後・12時間後・24時間後に測定された。

その結果、イカイシル抽出ペプチド溶液投与群では、4時間後・6時間後・12時間後の血圧上昇が生理食塩水投与群よりも有意に抑制されていることがわかった。また、イカイシル抽出ペプチド投与群は、バリン・チロシンペプチド投与群よりも4時間後・6時間後・12時間後において血圧が低いという結果が得られた。

「イカイシルから、強い血圧上昇抑制作用を持つペプチドを見出した。ペプチドはロイシンとアラニンとアルギニンで構成されており、優れた降圧作用は、その特性といえるだろう」と、道畠研究員は実験結果について解説する。

イカイシル脱塩液の顆粒化と錠剤化の技術も確立されているとのこと

イカイシルは塩分濃度が高いため、機能性を活かすためには脱塩処理をしたイカイシルをサプリメント原料として活用するのが望ましいそうだ。「イカイシルを取りすぎると、塩分過多でかえって血圧が上がってしまう。一方、完全脱塩すると強い苦みがでてしまうため、ふだんの食事には適さない。イカイシルのペプチドを効率よく摂取できるように加工する必要がある。血圧上昇抑制作用の検証に先立ち、2008年にイカイシル脱塩液の顆粒化と錠剤化にも成功している」と、道畠研究員は語る。

2017年には、イシルの品質向上や情報発信を目的として、魚醤油生産者や奥能登、七尾、志賀の6市町の商工会、商工会議所からなる「能登いしり・いしる生産者協議会(能登市、船下智香子会長)」が設立された。イシルの消費拡大に向けた取り組みが活発化している。産学官連携で、新たな健康食として郷土の伝統食をPRしていく方針だ。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。