間質性肺炎の線維化に野ぶどうエキス 急性増悪後の慢性病変に有効か

医療機関発

北関東や東北地方を中心に古くから民間伝承薬として親しまれてきた野ぶどうを、間質性肺炎の治療に取り入れている専門医がいる。獨協医科大学日光医療センター初代院長で、現在、同センターの統括管理者を務める中元隆明医師を訪ねた。

野ブドウ

肺は、肺胞と呼ばれる小さな袋が約3億個集まってできている。間質性肺炎は、肺胞と肺胞の境界となる「間質」という部分に炎症とコラーゲンを伴う線維化が起こる病気だ。悪化すると肺が硬く小さくなって膨らみにくくなり、ガス交換がうまくできなくなる。

膠原病や粉塵、薬剤や喫煙といった原因や症状など間質性肺炎にはさまざまなタイプがあるが、患者の6割以上と最も多くを占めるのが、「特発性間質性肺炎(IIPs)」だ。特発性間質性肺炎は“原因を特定しえない間質性肺炎の総称”とされている。

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特発性間質性肺炎はさらに、「特発性肺線維症(IPF)」「特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)」「呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)」「剥離性間質性肺炎(DIP)」「特発性器質化肺炎(COP)」「急性間質性肺炎(AIP)」に分類される。

これら特発性間質性肺炎のうち、特に頻度が高いのが「特発性肺線維症」だ。特発性肺線維症は、慢性的かつ進行性の間質性肺炎として知られている。「北海道STUDY」と呼ばれる大規模疫学調査では、対象となった553人の患者の平均年齢は70.0±9.0歳、そのうち72.7%は男性で、67.6%に喫煙歴があり、診断時を起点とした生存中央値(余命)は35ヵ月と報告されている。調査終了時までに亡くなった328人の死亡原因の40%は「急性増悪」だった(次いで「慢性呼吸不全」が24%)。

急性増悪は、間質性肺炎の経過中に呼吸不全が急速に悪化する状態のことで、原因不明のものが該当する。特発性肺線維症を含む特発性間質肺肺炎では、線維化の進行を抑えるとともに、急性増悪への対応が重要といえる。なお、急性増悪時にステロイドパルス療法を行ってから1週間後に「KL‐6」というマーカーが改善しない、あるいは悪化している例は予後が悪いという報告もある。

日光医療センター
鬼怒川温泉近くにある日光医療センター

野ぶどう抽出エキスで急性増悪後の肺の線維化が改善した

野ぶどうの特発性間質性肺炎に対する効果は、「間質性肺炎におけるAmpelopsis brevipedunculata(Maxim)Traut V.の線維化抑制とその臨床的効果」として報告された(『日本未病システム学会雑誌』vol.9 NO.2 2003)。

ラットの細胞を使って行われた中元医師らによる実験では、野ぶどう抽出エキスによりコラーゲン線維が縮小すること、野ぶどう抽出エキスがコラーゲン合成を阻害することが確認された。その後、中元医師は当時勤務していた獨協医科大学病院心血管・肺内科で特発性間質性肺炎による急性増悪と診断された患者(58歳・男性)に同意のもと、野ぶどう抽出エキスを飲んでもらうことにした。

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中元医師が野ぶどうの研究を始めた背景には、獨協医科大学の歴史があった。「古くから野ぶどうは肝臓の線維化にいいとされ、大学では約40年前からさまざまな研究が行われていた。もともと肝疾患を得意とする大学で、信頼できるデータも揃っていた」と中元医師は振り返る。同大学の細胞培養研究所では、野ぶどう抽出エキスの抗線維化効果や急性毒性試験による安全性が確認されていたため、特発性間質性肺炎にも応用できるかもしれないと考えたのだ。

1998年6月ごろ(当時57歳)から息切れとセキを訴えていた男性は、1999年7月初旬(58歳)に呼吸困難高度となり、同病院を受診。胸部X線写真で両側びまん性にすりガラス陰影が認められ、高度低酸素血症も見られたことから急性増悪と診断され、同年9月17日に緊急入院することとなった。

間質性肺炎断面1

男性は入院中、酸素療法とステロイドパルス療法を受けた後、10月19日に退院。その後も息切れとセキが続いたため、11月6日から野ぶどう抽出エキス(かんぐれーぷ)を1日6g飲んでもらったところ、約1ヵ月後の胸部CTで、すりガラス陰影の明らかな改善が見られ、5ヵ月後には自覚症状もほぼ治まったという。

間質性肺炎断面2

間質性肺炎断面3

特発性間質性肺炎の完治は難しく、野ぶどう抽出エキスの有効成分や作用機序も解明されていないものの、QOLなどが改善した例は、論文投稿後も確認されているという。「当時は聴診器を背中に当ててブツブツという“間質音”が聞こえたら余命5年、という時代だった。なんとかして患者さんを助けたいという思いも強かった」と話す中元医師は今後、改めて野ぶどう抽出エキスの研究に力を入れていく考えだ。

中元隆明医師
これまでの研究資料をもとに野ぶどうについて解説してくれた中元医師

なお、アスベストなど粉塵による間質性肺炎は減っているものの、高齢化によって特発性間質性は増えていくことが予想されているとのこと。タンのからまないセキや息切れが3ヵ月以上続く場合、専門医を受診してほしいと中元医師は話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。