おいしいリンゴは香りよし 蜜入りリンゴの人気は糖度ではなく香り成分で決まる

地域発

ほんのり甘い蜜入りリンゴ。人気の秘密は、ほのかな香りにあった。蜜入りリンゴと蜜なしリンゴに甘みの差はなく、私たち消費者の選択を決定づけているのは、蜜入りリンゴに多く含まれている”エチルエステル類”という香り成分であることが明らかになった。

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、青森県産業技術センターりんご研究所、小川香料による共同研究をご紹介したい。

蜜入りリンゴは、貯蔵性が低いため欧米では生理障害として取り扱われている。一方、日本やアジア諸国では、「甘くておいしい」と消費者の支持を集めている。しかし、蜜入りリンゴが選ばれる理由は長年の謎だった。甘さの指標となる糖度など、蜜入りリンゴと蜜なしリンゴには決め手となる味の違いがなかったからだ。

中央農研は、品質の高い作物の生産を目指し、農作物の風味を含有成分から明らかにする研究を進めてきた。今回の鍵となる技術が、いち早く取り組んできた「メタボローム解析法」だ。メタボローム解析法とは、生体内の細胞や組織に存在する全代謝物質(メタボローム)の反応経路や動態を解析する研究手法である。試験では、あらかじめ分析対象となる成分を絞り込まず、検出された水溶性・揮発性成分のすべてが分析された。その結果、蜜がたっぷり入った「ふじ」の香り成分が蜜なしのものと大きく異なることがわかった。蜜が入った「ふじ」は、独特の華やかな香りを放つことも明らかとなった。

さらに、蜜入りリンゴがおいしく感じられる理由を探るために、蜜が多く入っていることで知られる「ふじ」「こうとく」を使い、蜜の有無とリンゴの味、香り成分、官能評価との関連を調べた。そのほか、リンゴ果実の生理的状態の解明にも取り組んだという。その結果、蜜入りのリンゴでは、「エチルエステル類」と「メチルエステル類」が増加していることがわかった。エチルエステル類は、フルーティ、フローラル、スイートな香りをもたらしている。また、メチルエステル類がエチルエステル類といっしょになることで、香りに広がりを与えることも知られている。これらを踏まえ、エチルエステル類が蜜入りリンゴの好ましさを高める成分であるとの報告に至った。

ふだん意識することは多くないかもしれないが、香りは私たちの暮らしと深く結びついている。今回の研究の成果は今後、「おいしさ」の指標の拡大、おいしいリンゴの栽培・貯蔵技術の開発や新品種の育成に応用していくそうだ。

【リンク】農研機構:蜜入りリンゴのおいしさは香りにあり

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。