ヒノキチオールが薬剤耐性肺炎球菌の増殖を抑制 肺炎の予防・治療法の開発目指し動物実験へ 新潟大

大学発

ヒバなどに含まれる「ヒノキチオール」という成分に、肺炎球菌の増殖抑制効果や殺菌効果があることがわかってきた。新潟大学大学院医歯学総合研究科の土門久哲准教授らによる共同研究で明らかとなり、一連の成果は国際学術誌『Microbiology and Immunology』に掲載された。動物実験で薬効や安全性の検証を進め、肺炎の予防法の開発や創薬に繋げていく方針だ。

土門久哲准教授を中心とする研究チームは、日本における死因の第3位である肺炎の重症化のメカニズムや予防・治療法について研究してきた。肺炎が原因で亡くなる人は現在、年間約12万人。65歳以上の高齢になると肺炎は重症化しやすく、死亡リスクも高くなることがわかっている。

土門准教授によると、「肺炎の病原菌は主に肺炎球菌だが、抗生物質の効きにくい耐性菌が増加している。抗菌薬の不適切な処方や服用が背景にある。私たちは、一部の歯磨き粉にも使用されているヒノキチオールの研究を2016年から進めてきた。病原細菌に対する抗菌・殺菌効果を改めて検証するとともに、肺炎の予防や治療への応用を考えている」とのことだ。

ヒノキチオールは、日本産精油としても人気の高い「ヒバ精油」に含まれている成分の一つ。これまでに抗菌・殺菌作用のほか、抗腫瘍作用などがあると報告されている。土門准教授らの研究チームは、複数の肺炎球菌株に対するヒノキチオールの殺菌作用の解析を進めてきた。添加するヒノキチオールの濃度を変えながら、菌の増殖率を観察するという内容だ。

ヒノキチオールは低濃度で抗菌薬の効く肺炎球菌、薬剤耐性のある肺炎球菌の増殖を抑制することがわかった(土門久哲准教授提供)

「ヒノキチオールは抗菌薬が効く菌はもちろん、薬剤耐性のある肺炎球菌の増殖も抑制することがわかった。低濃度でも効果を発揮し、1時間で肺炎球菌が死滅するという結果が得られた」と、土門准教授は解説する。肺炎球菌のほかにも、虫歯や歯周病の原因となるいくつかの菌や、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する殺菌効果を示したそうだ。

ヒノキチオールを添加してから1時間後には肺炎球菌は死滅していた (土門久哲准教授提供)

研究を進めていく上で欠かせないのが安全性の検証だ。ヒトの細胞(咽頭上皮細胞)を用いた実験では、ヒノキチオールに傷害性がないことが確認された。これらの研究成果は2019年6月、国際学術誌『Microbiology and Immunology』の電子版と誌面に掲載された。

ヒノキチオールは高濃度でも細胞の生存率を低下させないことが確認された (土門久哲准教授提供)

研究チームは現在、肺炎を誘発したマウスにヒノキチオールを投与する実験の準備を進めている。土門准教授によると、「点滴による全身投与や、噴霧による肺への局所投与を想定した実験になる。上皮細胞に対する安全性は今回確認されているが、副作用についても新たに検証していく必要がある」とのことだ。

抗菌薬の頻用で薬剤耐性菌が増える中、新たな抗菌薬の開発はほとんど行われていないのが現状だ。「肺炎球菌対策のほかにも、ヒノキチオールの使用により口腔環境を改善できれば誤嚥性肺炎の予防にも繋がる。また、黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎との関連も指摘されている。経口や塗布といった用途を含め、ヒノキチオールは幅広い疾患の予防・改善に役立つ可能性を秘めている」と話す土門准教授。薬効とともに安全性の確認を進めながら、肺炎の予防法の開発や創薬を目指していく。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。