水耕栽培で亜鉛含有量が増加 “春日井サボテン”のブランド化に奔走 健康機能性の検証も進む 中部大

地域発

中部大学応用生物学部の堀部貴紀講師は、愛知県春日井市の特産品「ウチワサボテン」を“食用”として研究してきた。堀部講師によって確立された特殊な水耕栽培では、ウチワサボテンに含まれる亜鉛の量が牡蠣やレバーと同等の水準に増えることがわかっている。海外では食糧難の解決策としても注目されている食用サボテンの研究が、日本で独自の発展を遂げようとしている。

「名古屋大学農学部の園芸学研究室に在籍していたころから、サボテンはいちばん好きな植物だった」と話すのが、中部大学応用生物学部の堀部講師だ。中部大学がある春日井市は、サボテンの生産量日本一を誇る。“サボテン王国”の象徴となっているのがウチワサボテンだ。農林水産省の「農林水産物・食品地域ブランド化支援事業」に採択され、春日井市では「春日井サボテン」として地域ブランド化を推進している。

春日井市では「春日井サボテン」としてサボテンの地域ブランド化を推進している

堀部講師とウチワサボテンとの出合いは、研究者として中部大学に赴任した2014年に遡る。「春日井市のとあるお祭りでウチワサボテンを食べたのがきっかけで興味を持った。もともと好きだったサボテンについてあらためて調べていくと、サイエンスとしても地域活性化などの事業としても関心が尽きないものだと知った」と、堀部講師は振り返る。

従来から、サボテンは形態や進化などについて研究されてきた。一方、食用としてウチワサボテンについて研究している研究者は日本にはいなかったため、堀部講師の研究は孤軍奮闘の中で始まった。

堀部講師はメキシコなど海外の現場にも足を運んできた

岐阜放送に勤務していた経験もあり、自らを「現場好き」と評する堀部講師は、サボテンの自生地で、研究者も多いアメリカの研究所で1年間過ごしてウチワサボテンの研究の土台を築いた。その後も、サボテン研究の最前線を知るために、危険とされるメキシコの農村地帯など、数多くの海外先進地を訪ね歩いてきた。

「農家の皆さんといっしょになって取り組める応用研究に特にやりがいを感じている」と堀部講師が語るとおり、もっぱらの研究課題はウチワサボテンの生産性や付加価値の向上にある。最初に取り組んだのが、サボテンの水耕栽培だった。

「サボテンの研究では乾燥地域における栽培方法に関するものが多い。日本における研究だからこそ、水耕栽培の着想が得られた」という堀部講師。前例のない取り組みとなったが、研究室の学生らと議論を重ねながらホームセンターで材料を調達して装置を自作した。

サボテンの水耕栽培によって亜鉛の含有量が増えることがわかってきた

研究の一環として、ミネラル分を多く含む水耕液で水耕栽培したウチワサボテンの栄養成分の分析も進められた。ウチワサボテンだけでも種類は200種以上あるが、研究には海外で野菜や家畜飼料として利用されている「ノパレア・コケニリフェラ(Nopalea cochenillifera)」が用いられた。

成分分析の結果、水耕栽培したウチワサボテンの組織内にはミネラルが豊富に蓄積していることがわかった。ミネラルの中でも、特に多かったのが亜鉛の含有量だ。堀部講師が育て上げたウチワサボテンには100㌘あたり約10㍉㌘の亜鉛が含まれている。100㌘あたり13.2㍉㌘の牡蠣、100㌘あたり6.9㍉㌘のレバーなど、亜鉛リッチな食品と同等の水準である。

「サボテンの分厚い果肉には、主に水が蓄えられている。乾燥などの環境や土壌に応じて、蓄えられる物質やその割合が変わっていくようだ」と、水耕栽培で亜鉛の含有量が増えた結果について堀部講師は考察している。

今後は、海外で報告されているウチワサボテンの健康機能性の検証にも力を入れていく。血糖値の抑制、脂肪吸収の抑制、二日酔いの解消などが主な研究テーマとなる。約10人の研究者で組織される「サボテン科学研究会」のメンバーと連携しながら、ヒト試験の実施も目指しているそうだ。

ウチワサボテンが機能性食品として認知される日は近いかもしれない

堀部講師は「サボテンにほれ込んでいる」と表現するが、決して大げさではない。基礎研究ではサボテンのストレス耐性や重金属耐性に関するゲノム解析にも関わるほか、商工会議所が主催している春日井サボテンのイベント企画・運営にも携わっている。また、新たなサボテン農家に栽培方法や加工方法をレクチャーするなど、必要とされれば現場でも汗を流している。

「ウチワサボテンを雇用や産業の創出に繋げていきたい」という思いが、堀部講師の原動力だ。海外原産の野菜の中には、トマトのように観賞用だったものもある。水耕栽培が可能となったサボテンは、日本における新たな定番野菜となる可能性を秘めている。基礎研究から応用研究まで、そして現場から経営までを見据えるまさにオールラウンダーの堀部講師の活躍に今後も注目したい。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。