豪雪山間地の集落を救え!広葉樹“葉”のポリフェノール量と抗酸化活性を確認、旧薪炭林を再活用

地域発

豪雪山間地の集落は、半世紀前まで薪や炭の原料となる広葉樹林の供給基地としての役割を担ってきた。燃料革命によって放棄されてしまった旧薪炭林を再活用する取り組みの一環として、主要樹木の「葉」に注目した研究が新潟大学で進められている。ポリフェノールを豊富に含むブナ、タムシバ、オオバクロモジの葉には、抗酸化活性があることがわかってきた。健康茶の開発を視野に入れながら、豊富な広葉樹資源の新たな価値を提案していく。

日本経済を支えてきた旧薪炭林の活用が各地で課題となっている。全国6位の森林面積を有する新潟県も例外ではない。山林の荒廃は土砂崩れや渇水の原因となるものの、維持・管理には大きなコストがかかるという問題を抱えている。

新潟大学の紙谷智彦名誉教授は、旧薪炭林の経済的価値を復活させて山間地集落の再生を図るために、ブナをはじめとする広葉樹の有効活用を提唱している。2019年3月に新潟市で開催された「第130回日本森林学会大会」では、紙谷名誉教授とともに研究を推進してきた同大学教育学部の山口智子准教授によって、ブナ、タムシバ、オオバクロモジの葉の健康機能性が発表された。

当時の学生が樹木の葉をお茶として試飲した感想などをまとめたリスト

「研究室の学生が遊び心で県内にある樹木の葉を片っ端からハーブティーのように試飲し、それをカタログ風にまとめていたのが今回の研究のきっかけとなっている」と、紙谷名誉教授は注目を集める結果となった研究発表の舞台裏を明かす。

一方、「新潟県阿賀町のユキツバキの葉を用いた茶の開発を検討したことがあった。ユキツバキも緑茶のチャノキと同様、ツバキ科の常緑低木で、茶としての利用は想像できた。一方、今回の研究は食用として報告の少ない広葉樹。共同研究の提案があったときに飲ませてもらった広葉樹の葉の茶は、とてもさわやかな香りで驚いた」と話すのは、葉の機能性を分析してきた山口准教授だ。このときの試飲がきっかけで広葉樹の葉に対する興味が生まれ、紙谷名誉教授との共同研究が実現したという。

ブナ
タムシバ
オオバクロモジ

実験では旧薪炭林に生育する多くの広葉樹のうち、ブナ、タムシバ、オオバクロモジの3樹種の葉が使われた。紅茶を入れるときのようにティーポットを用いて、自然乾燥したそれぞれの樹種の葉からの熱水抽出液を調製し、総ポリフェノール量が分析された。その結果、抗酸化性の指標になる総ポリフェノール量ではタムシバとオオバクロモジはほぼ同程度で、高い数値だった。

山口准教授は、「タムシバやオオバクロモジのお茶5~6杯で、平均的なポリフェノール量を含む野菜100㌘に相当するポリフェノールを摂取できる可能性がある」と健康茶開発の可能性を示唆している。

山口准教授の専門は食物学だが、味覚センサーを用いて、茶の味と健康機能性の両立を模索している。「タムシバとオオバクロモジの抗酸化活性は強かったが、味などを含めた総合評価では、渋みの少ないブナの評価が高かった。葉のブレンドによって味と機能性のバランスを調整できるのではないか」と、山口准教授は展望を語る。今後はさらに10種類の広葉樹を新たに研究対象に加え、“最適解”を見出していく。

共同研究の道筋も拓けている。同大学農学部の三亀啓吾准教授と共同で、8000種類以上もあるといわれるポリフェノール類の中から主要な成分を詳細に調べていく予定だ。紙谷名誉教授は、「ポリフェノールは、植物が子孫を残すための種子や、紫外線による酸化ダメージから守る必要がある葉に、特に多く含まれている。今回の研究成果は食品としてさらに深い興味をかき立てるとともに、生態学的な観点からも注目される」と、研究領域の広がりにも期待を膨らませている。

雪国の旧薪炭ブナ林を活かすスノービーチネットワーク

紙谷名誉教授は40年以上、森林科学の領域で里山のブナ林と関わってきた。現在、旧薪炭林の広葉樹を木材として生産したい山間地域と、その木材を有効に活用できる可能性を持った人たちをネットワークで結ぶ「スノービーチプロジェクト」の活動を続けている。「林業ではスギやヒノキといった人工林に注目が集まり、豪雪の山間地集落周辺に多い旧薪炭林は見捨てられてきたといってもいい。今回の研究が、将来的には徳島県上勝町のような“葉っぱビジネス”に発展するかもしれない」と、紙谷名誉教授が山間地域再生にかける想いは強い。

日本は国土の66%を森林が占める森林国である。1955年ごろには100%近かった木材自給率が、いまでは30%程度まで減少している。国産木材需要の低下によって、1000万㌶の人工林の利用が進まないという報告もある。従来のビジネスでは採算が難しかった国内林業だが、未利用の広葉樹を活かした研究成果を発端としたビジネスが状況を一変させるかもしれない。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。