京のブランド産品「新丹波黒」「紫ずきん」 旬の黒大豆未熟種子、アントシアニン還元体の働きは

地域発

特産品の機能性研究が全国で進められている。亀岡市、南丹市、京丹波町などで生産され、9~10月の限られた時期だけ流通する京のブランド産品「新丹波黒」「紫ずきん」といった黒大豆の枝豆(未熟種子)や黒大豆の研究を続けているのが、京都学園大学バイオ環境学部の深見治一特任教授だ。深見特任教授の研究により、黒大豆は未熟種子のときからアントシアニン還元体を持つことがわかってきた。

ビタミンCにブドウ糖が結合した「プロビタミンC」という物質をクコの実から発見するなど、機能性食品や医薬品の開発に携わってきた深見特任教授が黒大豆の研究に着手したのは、2006年のこと。

「亀岡市にある京都学園大学に赴任したさい、『丹波地区特産の黒豆を見ていきましょう』ということで、京都府農業総合研究所(京都府農林水産技術センター)と連携しながら研究を始めた」と、深見特任教授は当時を振り返る。農林水産技術センターが黒大豆の栽培条件や品種の改良を推進していた時期だった。

京都学園大学の深見治一特任教授。京都学園大学HPより

大豆は種子の色や子実の色により、「黄色大豆」「青大豆」「茶大豆」「黒大豆」に分類される。また、粒の大きさによって「大粒大豆(粒径7.9㍉以上)」「中粒大豆(粒径7.3㍉~7.9㍉)」「小粒大豆(粒径5.5㍉~7.3㍉)」「極小粒大豆(粒径4.9~5.5㍉)」と分類されている。

国内消費量に占める国内生産量の割合を指す大豆の自給率は7%。飼料やサラダ油の原料となる油糧用を除いた食料自給率は25%となっている(平成27年度)。アメリカ、ブラジル、カナダ、中国からの輸入された大豆の流通が多いものの、国産大豆は外国産に比べてたんぱく質と食物繊維が多く、脂質が少ないことがわかっている。

「大豆は味噌や醤油、納豆や豆腐といった加工食品として利用されてきた。日本ではたんぱく質源として大豆の品種改良が重ねられていったのに対し、海外では油糧種子として脂質が豊富となるよう品種改良されていったのではないか」というのが深見特任教授の見立てだ。相対的に食物繊維が多い国産大豆は、体にいいたんぱく質食品といえるだろう。

完熟した大豆は味噌や醤油、納豆や豆腐などに加工される。未熟種子は枝豆として食されてきた。18世紀の末から、夏になると江戸には枝ごと蒸した枝豆を売り歩く枝豆売りの姿が見られていたそうだ。

大豆の種子の外側を包む種皮は、色で見ると3つにわけられる。黄大豆には色素が含まれず、茶大豆にはエピカテキンやプロアントシアニジン、黒大豆には、それら以外にアントシアニンが含まれている。遺伝子の関与によって色は決まるとされる。

深見特任教授によると「未熟種子に含まれるアントシアニン還元体がアントシアニンの生合成に関係しているかもしれない」とのこと

深見特任教授が目をつけたのが、完熟するとアントシアニンを持つ黒大豆の未熟種子だ。枝豆の段階では、黄豆、茶豆、黒豆、いずれの種皮も緑色をしている。黒豆の種皮だけが徐々にピンク色に変わっていくようすを見て研究を進めた結果、酸性条件で酸化が進むとアントシアニンが増えていくことがわかった。”仮説”は当たった。天然では見出されていない”新規のアントシアニン還元体(酸化されてアントシアニンに変化する)”が存在することを突き止めた。

「アントシアニンを含むブルーベリー、桑の実、黒米、アジサイの花、ツツジの花では同じような結果は得られず、黒大豆でのみ、アントシアニン前駆体の存在が認められた」と解説する深見教授。黒大豆種皮アントシアニン還元体の活用法はまだ見いだせていないものの、食品してビタミンCのような抗酸化物質になれば興味深く、おもしろいと話している。

深見特任教授は現在、枝豆の味の研究なども続けている。うま味や甘味が特長の新丹波黒、紫ずきんには、うま味成分のグルタミン酸や甘味成分のショ糖や麦芽糖などが豊富に含まれることがわかっている。”旬の味覚”は大手スーパーマーケットでも好評のようだ。

京都出身の深見特任教授は”地域おこし”にも力を入れている。京都学園大学HPより

食品化学のほかにも『亀岡学』という講座を持つ深見特任教授。「地域を知る」「農業を知る」「食品製造業を知る」「流通を知る」「地域おこしを知る」といったテーマで、各分野で活躍する人物を講師として招いてきた。自身、京都市の南に位置する吉祥院で生まれ育ち、京都大学大学院で博士号を取得した経歴を持ち、地元京都への思い入れも強い。

「Uターン、Iターンなど、人口が減っている府内の地域に興味を持ってほしい。若い人たちが楽しみながらそれぞれの人生を豊かにしていき、地域に活気が出てくるのが理想だ。そのきっかけを作っていきたい」と話す深見特任教授。専門のバイオサイエンスだけでなく、これからの時代を生き抜くヒントを若い世代に継承していく。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。