アカメガシワ葉に緑茶・赤ワインに匹敵する抗酸化力あり エビデンスで新素材の差別化図る

地域発

出雲国風土記に記載されているアカメガシワの葉には、緑茶や赤ワインと同等以上の抗酸化力があることがわかっている。未利用資源だった葉の機能性を研究してきた島根県では、脂質代謝や皮膚機能の改善効果が認められたアカメガシワ葉を原料とする茶や菓子が商品化されるなど、プロジェクトの成果は身近なものになりつつある。

アカメガシワはトウダイグサ科アカメガシワ属の落葉高木で、本州、四国、九州に広く自生している。ベルゲニンという成分を含む樹皮エキスは、健胃薬として胃酸過多や胃潰瘍に使用されてきたほか、整腸剤として用いられることもある。また、種子には抗ウイルス作用、抗腫瘍作用があると報告されている。一方、葉は民間療法として吹き出物などに使用されてきたものの、生理活性に関する学術的な報告は少なかった。

出雲国風土記に記載されているアカメガシワ。葉の抗酸化力が注目されている

島根県が産業振興を目的として「新産業創出プロジェクト」を立ち上げたのは、2003年のことだ。2008年に「健康食品産業化プロジェクト」から名称が変更された「機能性食品産業化プロジェクト」は、新産業創出プロジェクトの一つの柱と位置づけられてきた。

機能性食品産業化プロジェクトにおける「山野草を用いた健康食品の開発」では、県内で見られる野菜類、山野草類、高木類といった数百の植物の抗酸化活性を地道に評価してきた。その結果、アカメガシワの葉に最も強い抗酸化活性があることが明らかになった。

「ヒサギという古名を持つアカメガシワは『出雲国風土記』にも登場している薬草だ。県内の植物をスクリーニングしていったところ、アカメガシワ葉には、ほかの素材を圧倒する抗酸化活性が認められた。抗酸化活性と相関するポリフェノール濃度は、緑茶、ルイボスティー、赤ワイン以上だった」と話すのは、島根県産業技術センター浜田技術センター食品技術科の田畑光正さんだ。

アカメガシワ葉に含まれるポリフェノールを分析した結果、量の多い順にマロツシン酸、ゲラニイン、マロチン酸、ルチン、没食子酸、コリラジン、エラグ酸が単離・同定された。田畑さんによると、「抗酸化活性に寄与している主要成分はマロツシン酸、ゲラニインで、前者はアカメガシワ葉に特徴的に含まれている成分だ。血管弛緩作用のあるルチンも多いといえるだろう。ルチンが豊富な韃靼ソバと同程度の含有量であることがわかっている」とのことだ。

アカメガシワ葉の抗酸化力は夏にもっとも強くなるとのこと

ラジカル消去活性作用を評価する試験では、アカメガシワ葉ポリフェノールの働きが明らかになった。緑茶の主要カテキンであるエピガロカテキンガレード、コーヒーなどに含まれるクロロゲン酸、タマネギなどに含まれるケルセチンとDPPHラジカルに対する消去活性を比較したところ、マロツシン酸が最も高く、マロチン酸、コリラジン、ゲラニインはエピガロカテキンガレードと同等だった。「抗酸化活性は、マロツシン酸、マロチン酸、コリラジン、ゲラニイン、それぞれのタンニンの水酸基に起因すると考えられる」と、田畑さんは解説する。

そのほか、細胞傷害を引き起こす活性酸素を産生するスーパーオキシドラジカルに対する消去活性では、アカメガシワ葉タンニンはエピガロカテキンガレードと同等の働きを示した。また、生体傷害性の最も強いヒドロキシルラジカルについては、アカメガシワ葉タンニンの消去活性がエピガロカテキンガレードよりも高いという傾向が確認された。生体成分の保護活性についても、同様の結果が得られている。

動物実験やヒトに対する効果も検証された。「認知度が高くないアカメガシワ葉のような素材を産業化するためには、動物はもちろん、ヒトに対する効果や安全性を証明していく必要がある」というのが、田畑さんの方針だ。

ラットを用いた動物実験では、アカメガシワ葉を与えた結果、”善玉ホルモン”と呼ばれ、糖・脂質代謝に必要なアディポネクチンの増加が確認された。血中コレステロール値の改善も見られ、アカメガシワ葉の量が増えるほど効果は高くなった。

ボランティアの協力のもと実施された試験では、体脂肪率25%以上で肌の弾力が低い成人女性11人に対象に、朝・晩の食前に3粒(1㌘)ずつ、1日計6粒のアカメガシワ葉エキスを飲んでもらい、肌と体型の改善効果が検証された。その結果、8週間後に筋肉量、骨量、除脂肪量、基礎代謝量が有意に高値を示した一方、体脂肪率と腹部脂肪率は低値を示した。田畑さんは「過度のダイエットで減量すると、体脂肪だけでなく筋肉など除脂肪量も減少するが、食事制限なしで理想的な減量効果が得られたといえる」と試験結果を評価する。

参加者からはシミ・そばかす、顔のくすみが改善したという声も多かったそうだ。前述の動物実験では、セラミドやヒアルロン酸の増加が認められ、ボランティアを対象とした試験では、肌のキメが整っているようすが専用の測定機器で観察された。

アカメガシワ葉の粉末を活用した菓子が開発・販売されている

研究成果の一部は、商品化という形で社会に還元されている。2010年には、大田農水加工協同組合からアカメガシワ葉のお茶(青春回帰茶)が発売された。また、いずも薬草プロジェクト(出雲商工会議所内)では、アカメガシワ葉を加えたシリアルバーやクッキーなどが開発されている。

島根県では現在、耕作放棄地や皆伐跡地でのアカメガシワの植栽にも力を入れているそうだ。アカメガシワ葉が、”美肌県”として注目されるようになった島根県発の美活ハーブとして定着する日は近いかもしれない。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。