規格外ウニの有効活用で脱・磯焼け!北海道の産学官、やせウニ餌料、機能性食品開発目指す

地域発

磯焼け対策と規格外ウニの高度付加価値化の両立なるか――北海道の産学官で構成されるプロジェクトチームでは、規格外ウニの有効活用法について研究を進めてきた。2015年には、やせウニの人工餌料開発に成功。改良を重ねた現在、岩手県の自治体・企業と共同で、実証実験を実施している。餌料開発のほか、ウニの生殖巣の健康成分に着目した機能性食品の開発も進行中だ。

磯焼けとは、浅海の岩礁域のコンブやワカメといった海藻が減少・消失していく現象を指す。磯焼けが発生すると、海藻をエサとしているアワビやサザエが海からいなくなり、魚類の住まいや産卵場も失われていく。海中の生態系全体に悪影響を及ぼす磯焼けは、”海の砂漠化”とも呼ばれる環境問題の一つとなっている。

「積丹ブルーが観光地として脚光を浴びるようになったが、必ずしも喜べるものではない。澄んだ美しい海は、海藻がなくなったことを意味するからだ」と話すのは、北清(北海道札幌市、川井雄一会長)の今村聖祐取締役市場開拓企画部長だ。同社は、ノーステック財団の支援のもと北海道大学、北海道情報大学、熊本県立大学、産業技術総合研究所、北海道立工業技術センター、北海道立総合研究機構とともに、”ウニの有効活用”による磯焼け対策の確立を目指し、2014年から研究を続けてきた。

規格外ウニの有効活用による磯焼け対策について研究している北清の今村聖祐取締役市場開拓企画部長

磯焼けには、温暖化や沿岸部の埋め立てによる環境の変化など、さまざまな問題が関与しているとされる。そのうちの一つが、藻食生物であるウニによる食害だ。高級食材として流通しているウニがあるのに対し、海中には水揚げされることのないウニが存在する。そのほとんどが、身入りや色の悪い規格外ウニだ。

規格外ウニが海藻を食べつくすと、海の砂漠化とともに”ウニの高齢化”が進む。年を取るとウニの色の悪化は進み、生殖巣もさらにやせていくことがわかっている。こうした悪循環を断ち切るには、新たな藻場への定期的なウニの移動や老齢ウニの駆除などが考えられるが、問題はいまのところ解決していない。コストがかかりすぎる、というのが最大の理由だ。

廃棄物処理事業・リサイクル事業を収益の柱とする北清グループは、「美しい地球を次世代へ」という企業理念のもと、環境保全の取り組みに力を入れてきた。海洋環境の改善に直結する磯焼け対策は、その一環として推進されている新規事業だ。担当者として指名されたのが、マリンスポーツが趣味だという今村取締役だった。

今村取締役によると、「磯焼けは全国で問題となっているが、十分な対策はできていない。私たちは、やせたウニの身入りがよくなるエサの開発と、ウニの生殖巣の機能性の解明に取り組んできた。規格外ウニの新たな価値の創出とコストの問題をクリアしていきたい」というのがプロジェクトの概要だ。

2015年12月には、道南に位置する木古内町の協力のもと、北海道大学大学院水産科学研究院の浦和寛准教授(水産学博士)が開発した人工餌料による身入り改善効果を評価する試験が実施された。漁港内において、開発した専用のカゴに100匹のウニを入れ、餌料を週2回与え、ウニの重さに対する可食部の割合を指す「生殖巣体指数」の変化を3ヵ月間、観察するという内容だ。

その結果、試験開始時に10%未満だった生殖巣体指数が、試験終了時には15~16%に改善。20%近くなったものも多くあった。生殖巣の脂肪酸の組成を分析すると、餌料を食べたウニには、天然ウニよりも多くのDHA(ドコサヘキサエン酸)が含まれることも確認された。「流通しているウニの生殖巣体指数は通常、13~15%。老齢ウニの実入り改善は難しいとされてきたが、冬期間にもかかわらず出荷できるサイズになり、良質な脂肪酸を増やすこともできた」と、今村取締役は解説する。

やせウニの身入りがよくなり脂肪酸も増えることがわかった

人工餌料の改良を重ね、2018年12月には岩手県の漁業従事者との共同研究が始まった。北海道と同じく、専用のカゴを使用して漁港内で行う実験だ。餌料によって冬期のウニの身入りが改善するか確かめていく。夏が旬のウニ。オフシーズンの良好な品質のウニの作出は、漁業従事者の収入アップに直結する。

一方、健康食品の開発を目指した機能性研究も順調に進んでいる。ウニには良質なたんぱく質や脂肪酸が含まれている。動物実験で腸内環境改善効果や抗肥満作用が確認されると、ヒトを対象とした試験が実施された。今村取締役によると、「生殖巣を原料とする錠剤を12週間摂取してもらった結果、腸内環境と血中脂質の改善が確認された。現在、メタボ対策の商品化を目指している」とのことだ。

抗炎症作用のあるウニの殻について研究してきた 北海道医療大学病院の北市伸義病院長 。”ウニのまるごと利用 “で環境問題解決にも繋がると話す

また、ウニの生殖巣ではなく、産業廃棄物となる殻に注目している人物もいる。「ロシア出身の留学生から”ウニの外殻抽出物には鉄のキレーティング作用があり、ソビエト連邦の時代から脳や心臓の病気に使用されてきた”と聞いたのが、ウニの殻に興味を持ったきっかけ」と話すのは、北海道医療大学病院の北市伸義病院長だ。眼科を専門とする北市病院長は、ウニの外殻に含まれる「エキノクローム」という成分について研究してきた。

北市病院長が行った動物実験では、ウニの外殻抽出物は抗炎症作用が強く、ぶどう膜炎の改善に有効であることが確認された。「ラットを用いた実験で、エキノクロームを投与したラット群では、投与していないラット群に比べて眼内炎症が軽度で、眼内の炎症性マーカーの値も低いという結果が得られた。ぶどう膜炎などに対する抗炎症剤の開発に繋がれば、産業廃棄物の問題解決にもなる」という北市病院長。研究の成果については既に特許取得済みで、”ウニのまるごと利用法”を模索している。

廃棄物を出さないゼロエミッションでの規格外ウニの活用による磯焼け対策は、環境・健康・経済にプラスとなる。厄介者とされていた規格外ウニが今後どのように姿を変えるか、注目が集まっている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。