炎症抑制効果の高いパプリカキサントフィルを特定 アディポネクチンの増加で生活習慣病が改善

地域発

弘前大学の前多隼人准教授の研究で、赤パプリカに含まれる「キサントフィル」というカロテノイドの慢性炎症抑制効果が明らかになりつつある。これまでに、パプリカキサントフィルが脂肪細胞の肥大化を抑制してアディポネクチンを増やし、慢性炎症を引き起こすサイトカインを減らすという実験結果が確認されている。活性の強いキサントフィルも特定され、炎症誘導型と炎症抑制型のマクロファージのバランスを調整する働きがあることもわかってきた。

ピーマンやトウガラシの品種の一つに分類されるナス科トウガラシ属のパプリカ。日本では料理に彩りを与える野菜として、炒めものやサラダなどに使用されている。パプリカには天然の色素成分である「キサントフィル」というカロテノイドが豊富に含まれており、食品添加物であるパプリカ色素としても流通している。カロテノイドは機能性成分としても近年注目されており、抗酸化作用や抗ガン作用などが国内外で報告されている。

抗炎症作用の見出された清水森ナンバの仲間であるパプリカの機能性を研究することになったとのこと

弘前大学農学生命科学部の前多隼人准教授は、パプリカキサントフィルの健康効果を研究している。「津軽地方で古くから栽培されている清水森ナンバというトウガラシの研究をしていたときに、カプサンチンというキサントフィルの抗肥満作用や抗炎症作用が確認された。トウガラシの仲間である赤パプリカにもカプサンチンが含まれていることが知られており、2010年ごろから成分や機能性を調べてきた」と話すのが、前多准教授だ。

ファイトケミカルとして認知されているカロテノイドは、「カロテン類」と「キサントフィル類」に分類される。赤パプリカには、「β-カロテン」「β-クリプトキサンチン」「ゼアキサンチン」というカロテン類と、「カプサンチン」「ククルビタキサンチンA」「カプサンチン3,6-エポキシド」「カプソルビン」「クリプトカプシン」というキサントフィル類が含まれている。

赤パプリカにはカロテノイドのうち「カプサンチン」「ククルビタキサンチンA」などのキサントフィルが多く含まれている

前多准教授によると、「カロテノイドが多いことで知られるトマトやニンジンのほとんどがカロテン類であるのに対し、赤パプリカの約8割はキサントフィルで構成されている。そのうち半数を占めているのがカプサンチンである。カロテノイドの総量もトマトやニンジンより赤パプリカのほうが多く、ほかの食品にはあまり見られないククルビタキサンチンAというユニークな構造を持つキサントフィルも確認されているため、機能性に興味を持った」とのことだ。

前多准教授は、高脂肪食を与えるマウスとパプリカ色素を混ぜた高脂肪食を与えるマウスを3週間飼育して、インスリン抵抗性を改善させる「アディポネクチン」と、インスリン抵抗性を悪化させる「レジスチン」の量を比較する実験を行った。その結果、パプリカ色素投与群は高脂肪食群と比較して血漿中のアディポネクチン濃度が高く、レジスチン濃度は低いことがわかった。さらにパプリカ色素投与群の白色脂肪組織でも、アディポネクチンの遺伝子の発現上昇とレジスチンの発現低下が確認された。

前多准教授は、「パプリカ色素投与群では善玉のHDLコレステロールが増えており、キサントフィルの脂肪組織への作用が示唆された。検証した結果、パプリカ色素は前駆脂肪細胞から小型の脂肪細胞への分化を促してアディポネクチンを増やしていることがわかった。肥大化した脂肪細胞からは炎症にかかわるアディポサイトカインが放出され、インスリン抵抗性は悪化する。脂肪細胞の分化促進は、肥満や慢性炎症改善の鍵といえる」と解説する。

脂肪細胞の分化促進効果を確認すると、慢性炎症抑制効果が検証された。マウス由来の脂肪細胞にパプリカ色素を添加した結果、TNF -α、IL -6、MCP -1など炎症に関連するアディポサイトカインの発現の抑制、炎症で増えるNO濃度の低下といった結果が得られた。前多准教授によると、「パプリカ色素のカロテノイドをそれぞれ調べたところ、活性が特に強いのはカプサンチン、ククルビタキサンチンA、カプソルビンだった。これらは抗酸化作用の強いカロテノイドの上位3種でもある」とのことだ。

糖尿病肥満モデルマウスを使った実験では、パプリカ色素による血糖値やAST・ALTの改善傾向も確認された。前多准教授が注目したのは、マクロファージの変化だった。「マクロファージには、炎症誘導型のM1と炎症抑制型のM2が存在する。肝臓や精巣周囲の白色脂肪細胞ではM1の発現が低下しており、M 2 の発現が増加する傾向が示された。パプリカ色素にはマクロファージのバランスを調整する働きもありそうだ」と、前多准教授は実験結果を分析している。

一連の研究成果は2020年に発表された。今後は、さらなるエビデンスの蓄積が課題となる。「パプリカは日常的に摂取しやすい食材で、キサントフィルの体内吸収率も高い。また、キサントフィルその代謝産物は赤血球の中に入って全身に運ばれることもわかっている。これはカロテン類にはない特性だ。今後、ヒト試験でもパプリカの健康効果を検証していきたい」と前多准教授は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。