食べるセロトニンでブランド化!東北大学、農研機構、凍結乾燥トマトの脂肪燃焼効果

大学発

東北大学大学院農学研究科と農研機構による共同研究で、セロトニンという物質の経口摂取によって、抗肥満効果が得られることが明らかになった。セロトニンは野菜の中ではトマトの中果皮に最も多く含まれ、凍結乾燥することで濃縮されて量が増し、安定することもわかってきた。

共同研究は、セロトニンの腸管からの吸収率や抗肥満作用を解明するとともに、セロトニンを豊富に含む品種や機能性食品を開発するための基礎的な情報を得ることを目的に行われた。

「神経伝達物質として働くセロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸を材料として体内で合成されるという印象が強いかもしれないが、食品にも含まれている。今回、野菜、果実、穀類、豆類に含まれるセロトニンに加え、セロトニンの前駆体のトリプトファンの量を分析した」と話すのは、東北大学大学院農学研究科の麻生久教授だ。

研究チームが食品を網羅的に解析した結果、野菜では、プチトマト、トマト、ニンジンの順にセトロニンが多く含まれており、果実では、キュウイ、バナナ、パイナップルにトマトと同程度のセロトニンが含まれていることがわかった。トマトを凍結乾燥すると、セロトニン濃度は100㌰㌘/㌘と生の10倍に濃縮され、安定するという発見もあった。一方で、缶詰やジュースといったトマトの加工食品では、セロトニンの量は生の4分の1から10分の1に減少していた。

セロトニンの経口投与による働きを調べるために行われた動物実験では、マウスに経口投与したセロトニンは速やかに体内に吸収され、糖代謝と脂質代謝を改善させることが明らかになった。血糖値は有意に低下し、胆汁酸濃度の上昇も確認され、脂質代謝の関連因子も変動していた。さらに、体内で生成されるセロトニンの分泌を促すことが確認されている。

通常飼料、高脂肪飼料を与えたマウスに生理食塩水とセロトニンのいずれかを経口投与する実験も行われている。21週齢時の検査では、セロトニンを経口投与することで、高脂肪飼料による体重増加、腹腔内の脂肪量増加が有意に抑制された。セロトニンの傾向投与群では、糖代謝能とインスリンに対する反応が高いことも明らかとなった。

脂肪細胞には、余分な脂肪を燃焼して熱を産生する「褐色脂肪細胞」と、脂肪を蓄えながらアディポネクチンなど善玉の生理活性物質を分泌する「白色細胞」がある。白色細胞が肥大化すると、分泌されるアディポネクチンの量が減る一方で、インスリンの働きを妨げる炎症性サイトカインを放出してしまうことがわかっている。

麻生教授によると、「高脂肪のエサを食べていたマウスの褐色脂肪細胞は肥大化、単胞化して、白色細胞へと変化していたのに対し、セロトニンを摂取していたマウスの褐色脂肪細胞の性質や機能は維持されていた。セロトニンの摂取量を増やすと、ミトコンドリアの内膜にあり熱産生にかかわる『UCP1』というたんぱく質の量も増えていた」とのことだ。

イタリアやスペイン、フランスといった国では、心臓病が少ないことがわかっている。オリーブオイルやワインに含まれるポリフェノールなどの日常的な摂取が理由として挙げられているが、「伝統的に食材として活用してきたトマトが代謝を上げていたことも、心疾患のリスクと関係しているかもしれない」というのが、麻生教授の見立てだ。

今後の展開について麻生教授は、「品種改良のほか、乾燥法と供給法、セロトニンの量を維持できる調理法の開発が課題になる。園芸学の金山喜則教授、栄養学の白川仁准教授とも連携しながら産学で研究を続け、農林水産物・食品のブランド化を推進していきたい」と話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。