久慈産琥珀、アレルギー性鼻炎に有効か 世界初の新規物質“クジガンバロール”

地域発

岩手県の久慈地方は、国内最大の琥珀の産地として知られている。宝飾品などに加工されている琥珀で世界最古となるのが久慈産琥珀だ。久慈産琥珀抽出物「Kujigamberol(クジガンバロール)」には、アレルギーを抑える働きや美容効果があることがわかってきた。

久慈地方で産出される琥珀は、8500万年前(中生代白亜紀)の樹脂化石で、6500万年前の大量絶滅で滅んだ植物由来のものと考えられている。科学技術振興機構(JST)の復興支援プログラムでは、岩手大学、久慈琥珀株式会社(久慈市)の産学連携のもと、久慈産琥珀の機能性研究が進められてきた。

久慈産琥珀は地質学、古生物学的に貴重な資源だが、加工が難しい上に、宝飾品としては落ち着いた色合いの久慈産よりもロシア産やドミニカ産といった外国産の明るい商品が好まれるという傾向もあって、売れ行きは必ずしも順調とはいえなかった。実際、久慈琥珀社における久慈産琥珀の売上のシェアのほとんどを外国産琥珀が占めていたという。

「久慈産琥珀の独自性を探り、付加価値を見出し、地域活性化につなげる目的で研究がスタートした」と話すのは2006年以降、プロジェクトの中心となって研究を進めてきた岩手大学農学部応用生物科学科の木村賢一教授だ。木村教授は琥珀を“植物由来の天然資源”と捉え、世界で初めて機能性成分の解析に乗り出した。

木村教授によると、「ロシアでは医薬品として、日本では化粧品として琥珀は利用されているが、生物活性物質を単離して構造を明らかにした例は、これまでになかった」とのこと。久慈産、ロシア産、ドミニカ産琥珀粉末のメタノール抽出物を調べてみたところ、すべての琥珀抽出物に病気の予防や治療効果が期待できる「病気の酵母の生育回復活性」が認められた。

琥珀粉末(木村賢一教授提供)

それぞれの琥珀抽出物に含まれる生物活性物質を単離精製した結果、久慈産琥珀抽出物からメインの新規物質を単離することに成功した。一方、ロシア産、ドミニカ産琥珀から単離できたのは、マツやマメ科植物由来の既知の物質であることがわかった。久慈産琥珀から発見された新規物質は「クジガンバロール」と命名された。

「久慈琥珀社で琥珀の加工に携わる従業員に花粉症の人がいないというのがヒントになった」と木村教授。クジガンバロールを発見した後、アレルギーに的を絞って動物実験を行ってみると、高い抗アレルギー活性があることがわかった。具体的には、アレルギー性鼻炎の定量噴霧医薬品の約5倍の効果が認められたという。実際に、モルモットの鼻づまりやマウスのかゆみの改善が見られた。しかも、同様の効果が抽出物自体にもあることが驚きである。ほかにも、シワの改善効果が期待できるそうだ。

研究の成果を受け、2015年には久慈産琥珀化粧品が発売された。今後の展開について木村教授は、「時間や費用など医薬品の開発はハードルが高いが、スプレーでマスクやティッシュに噴霧したり、アロマオイルとともにディフィーザーで室内に拡散させたりするほか、家具や建築資材の表面加工剤としての活用法も考えられるかもしれない」と話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。