リンゴ、ニンニク、ゴボウなど、青森県には日本一の生産量を誇る農産物が多い。ナガイモも、その一つだ。ナガイモにインフルエンザウイルスへの感染抑制作用があることをご存知だろうか。ミリオン(青森市)は、ナガイモ抽出液をベースとした口腔用のスプレーを開発した。
ナガイモは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属に属するヤマイモの一種で、生食できる数少ないイモとしても知られている。消化酵素が豊富で、日本では「山のウナギ」と呼ばれ、消化促進、滋養強壮にいい食べ物として食されてきた。また、漢方でも「山薬」として、糖尿病や心臓病に効果があるといわれている。
「知」の結集プロジェクト推進事業の一つである「県産農水産物を活用した産業振興モデル」の取り組みで、ナガイモ抽出液にインフルエンザウイルスへの感染を抑制する働きがあることを発見した青森県環境保健センター、弘前大学地域共同研究センターを中心とする産学官の研究チームは、有効成分の特定と加工食品化に向けた取り組みを進めてきた(平成18~19年度事業)。研究成果は、農研機構の『BRAIN』にも掲載されている。
研究チームが、ナガイモ抽出液をインフルエンザウイルスにかけて電子顕微鏡で確認したところ、ウイルスの外殻のスパイクが破壊されることがわかった。当時、産学官研究に参加していた青森県環境保健センターの畑山一郎元所長によると、「感染の鍵になるスパイクを、ナガイモの成分が破壊している」とのことだ。
インフルエンザウイルスは、くしゃみや咳によって飛散してヒトに吸入され、粘膜に付着してから約20分で細胞に侵入するといわれている。感染を抑制するには15mgのたんぱく質が必要とされるが、ナガイモ抽出液には1mlあたり20mgのたんぱく質が含まれている。凍結乾燥物を利用すれば、より少量で感染抑制が可能だ。
一連の研究の結果、抗ウイルス活性を持つ有効成分は「ディオスコリンA」というたんぱく質であることが発見された。ナガイモ抽出物がインフルエンザウイルスに直接作用し、細胞を包み込んで無害化していることもわかった。ナガイモ抽出物が効果を発揮するためには、ディオスコリンAをできるだけ長く口にとどめておく必要がある。
ミリオンではこれまでに、ディオスコリンAを含むタブレットや飴を開発してきた。県を挙げた取り組みから10年、顧客からの要望も多かった口腔用スプレーは、メディケアフーズ展(1月24~25日、東京ビッグサイト)でお披露目される。ミリオンODM総合研究所の木浪弘己所長代理は、「電車やバスに乗るときなど、スプレーするだけで手軽に使えるのもメリットだ」と話している。