佐賀大発ベンチャー企業開発のバラフ 創業から10年、“野菜の宝石”あらためて脚光

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佐賀大学農学部発ベンチャー企業の農研堂で開発されたアイスプラント「バラフ」をご存じだろうか。2007年の創業から10年――“野菜の宝石”と呼ばれるバラフがいま、食卓を彩る高級食材として、あらためて注目を集めている。

南アフリカ原産で、地中海沿岸やオーストラリアなどに自生しているアイスプラントの日本国内での研究が始まったのは1999年のこと。第一人者は、土壌の塩分を吸収する特性に着目した野瀬昭博教授(2014年、佐賀大学農学部を定年退職)だ。乾燥地域の砂漠化に繋がる塩類集積地の土壌修復技術の開発が研究の狙いだった。

栽培法など、さまざまな研究が進められていく中、2001年には野菜としてもアイスプラントに高い価値があることがわかってきた。アイスプラントは欧州で、フランス料理の食材としても珍重されていたからだ。

アイスプラントの国産野菜化の研究も始まり、2006年には佐賀大学として「バラフ」という名称が商標登録された。「barafu」は、原産の南アフリカで広く使われているスワヒリ語で「水晶」を意味する。宝石のような細胞を葉にまとう姿から命名された。

バラフの養液栽培のようす

バラフはビニールハウス内で土を使わず、適度に塩分が管理された培養液を与える「養液栽培」という方法で栽培されている。佐賀県の広大な干拓地では、土壌に含まれる塩分が問題となる。えぐみも強く、露地栽培は生食には適さないことが長年の研究でわかったからだ。養液栽培を採用したことで、土壌に残る重金属が蓄積する懸念も解消された。

その後、2007年に設立されたのが佐賀大発発ベンチャー企業の農研堂だ。創業から10年。研究者と経営者の仕事は大きく異なり、創業後は苦戦が続いた。現在、同社の3代めの代表は、佐賀大学OBの永原辰哉社長が務めている。

赤字続きだった事業は2013年、ようやく黒字化した。「需要と供給のバランスに気をつけ、出荷する11月~6月の期間で価格の大きな変動が起こらないように努めてきた。流通の面でも苦労はあったが、なんとか乗り越えてきた。大学開発という名に恥じぬよう、規格品となる茎頂部の品質の安定はもちろん、ブランディングにも力を入れた」と、永原社長は振り返る。

ほんのりとした塩味や、プチプチとした食感が話題となり、バラフは日本の主要都市で見かける機会が増えた。永原社長によると、「この時期は例年、出荷のピークとなる。バラフのきれいな葉がクリスマスなど冬のイメージに合うのだろう」とのことだ。香港など海外からの問い合わせも最近は増えている。

バラフエキス配合美容液。過酷な環境を生き抜くために蓄えられてきた天然由来の成分が豊富

佐賀県内の企業と共同で開発されたバラフエキス配合の保湿美容液も好評だ。これまでの試験では、シワの改善効果などが確認されている。そのほか、血糖値の上昇を抑えるピニトールという成分が含まれていることに加え、肺や泌尿器粘膜の炎症を抑えるために、葉の搾り汁が民間伝承薬的に使われてきた地域があることもわかってきた。今後は機能性食品としての研究開発も期待されている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。