慢性炎症の予防に自然薯のジオスゲニンが有効か “機能性とろみ剤”の開発目指す 岡山県立大

地域発

岡山県立大学の山本登志子教授は、自然薯の機能性研究を続けている。細胞実験や動物実験では、自然薯の乾燥粉末に抗炎症作用などがあることが明らかになっている。慢性炎症を誘発するプラスタグランジンE2(2は下付。以下、「PGE2」)の産生を減少させる効果が見出されており、植物ステロールの「ジオスゲニン」が関与成分であることもわかってきた。山本教授は、加工時に食感などを調節しやすい自然薯の物性にも注目しており、抗炎症作用を持つ“機能性とろみ剤”の開発も行なっているとのことだ。

日本原産のヤマノイモ科ヤマノイモ属の自然薯には、古くからさまざまな健康効果があるといわれてきた。滋養強壮や老化予防効果は代表的なもので、粘性糖たんぱく質による胃粘膜の保護効果や、炭水化物の分解酵素であるアミラーゼによる消化促進効果なども知られている。

自然薯の抗炎症作用が明らかになりつつある

岡山県立大学保健福祉学部の山本登志子教授は、民間伝承にとどまらない自然薯の新たな機能性を探索している。「研究室の研究テーマの一つは、“食による慢性炎症の予防”だ。PGE2という生理活性脂質の産生を調節する働きのある食品などについて研究している」と話すのが山本教授だ。PGE2はオメガ6系脂肪酸のアラキドン酸の代謝産物で、「COX -2」「mPGES -1」という酵素によって過剰に合成されると、慢性炎症の原因となる。PGE2は、慢性疼痛・関節リウマチ・炎症性腸疾患などに関与しているそうだ。

慢性炎症の予防・改善には、PGE2を減らす必要がある。PGE2の合成阻害剤として広く使用されているのが、アスピリンやインドメタシンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)だ。「ガンに対する効果も認められているNSAIDsは優れた薬だが、胃粘膜障害や心血管系障害など重篤な副作用も報告されている。慢性炎症の予防には、継続的に摂取できる食品由来成分を見出す必要があると考えた」と、山本教授は研究の経緯を振り返る。

さまざまな素材のスクリーニングを進めた結果、PGE2の産生抑制効果のある食品としてリストアップされた一つが自然薯だった。細胞実験で抗腫瘍作用と抗炎症作用を確認すると、山本教授は動物実験における効果の検証に着手した。実験には、皮膚ガン誘発マウスを使用。通常のエサを摂取させるグループと自然薯の乾燥粉末を混ぜたエサを摂取させるグループ、自然薯抽出物を塗布するグループと塗布しないグループに分けて、マウスのようすを観察した。

実験の結果、両群のポリープの数に明らかな差は認められなかったものの、自然薯摂取群と自然薯抽出物塗布群のポリープの体積は有意に縮小。皮膚ガンの拡大に伴う表皮の肥厚と、ガン組織周辺への炎症性細胞の浸潤が抑えられていることもわかった。山本教授は、「実験では、変化を観察しやすいという理由で皮膚ガン誘発マウスを採用した。今回の結果は、塗布だけでなく、経口摂取によって、自然薯が炎症を抑えたり腫瘍の形成を防いだりする可能性を示唆している」と話す。

実験では自然薯に含まれるジオスゲニンのPGE2の産生抑制効果が明らかになった

実際に、摂取・塗布のいずれの自然薯投与群でもCOX-2、mPGES-1の発現や、ガンの悪化によって上昇するPGE2量の減少が確認されている。山本教授によると、「機能性成分を分析した結果、一つの候補成分として、植物ステロールのジオスゲニンが見つかった。グルココルチコイドという受容体を介して、COX-2、mPGES-1の発現を調節しているようだ。IL-1、IL -6といった炎症性サイトカインの減少も認められており、肝炎のモデルマウスを使った実験では、COX-2、mPGES-1の発現抑制と炎症組織の改善が観察された」とのことだ。

山本教授は、自然薯特有の粘りけにも注目している。「研究を続ける中で、自然薯の乾燥粉末は原料の濃度を変えることで食感を調整しやすいことがわかってきた。嚥下調整食として使用できるとろみ剤への応用は、横展開のアイデアの一つだ。日常的に無理なく取り入れられるように、自然薯の乾燥粉末とほかの粉末食材と組み合わせたレシピなども考案している」と、山本教授は自然薯研究の新たな展望を語る。

一連の研究は、地域資源の有効活用につながる可能性も秘めている。「実験では、出荷規格外で廃棄されている岡山県産の自然薯を使用してきた。県内の事業者から相談を受けたのがきっかけだった。慢性炎症の予防が研究の中心だが、規格外の自然薯を用いたとろみ剤などを開発できれば、健康の維持・増進のほかにも、高付加価値化、廃棄の減少といった生産者にとってのメリットも出てくるのではないか」と、山本教授は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。