和歌山原産の香酸柑橘“ジャバラ”果皮の抗肥満作用を確認 肥満解消に必要な3ステップに効果

地域発

和歌山工業高等専門学校の奥野祥治准教授の研究で、ジャバラ果皮に抗肥満作用があることが明らかになった。これまでに、糖や脂肪の代謝に必要な善玉ホルモンを分泌する脂肪細胞を増やす働きをはじめ、脂肪の蓄積を抑制して脂肪細胞の肥大化を防ぐ働きや、脂肪細胞にすでに蓄積している脂肪を分解する働きなどが確認されている。肥満の予防・改善のほか、最新の研究では糖の分解・吸収にかかわる酵素の活性を阻害して、食後血糖値の急激な上昇を緩やかにする働きがあることもわかってきた。

ウメやカキの最大の産地として知られている果樹王国・和歌山県。近年、注目を集めているのが、「ジャバラ」という果実だ。ジャバラは和歌山県県北山村原産の香酸柑橘で、同県では国内における生産量の7割以上を占める約150tが毎年収穫されている。11月下旬から2月上旬ごろまでが旬のジャバラは、100%果汁や飲料をはじめ、ジャムやゼリー、ポン酢やドライフルーツなどとして流通している。

苦味を処理したジャバラピール(提供:株式会社ナルリッチ)

和歌山工業高等専門学校生物応用化学科の奥野祥治准教授は2010年以降、ジャバラの健康効果を研究している。奥野准教授が機能性研究に乗り出した背景には、加工に伴う廃棄物の問題があったという。「2011年に、産学官研究でジャバラの強烈な苦味を除去する技術を開発した。既存商品の改良や新商品の開発につながったものの、製造工程で出る残渣や廃液など廃棄物の問題が残った。ジャバラの果皮には豊富な機能性成分が含まれており、それらの有効活用法を模索するようになった」と、奥野准教授は研究の経緯を振り返る。

ジャバラの果汁には花粉症の予防・改善効果があると報告されているが、そのほかの機能性研究は手つかずの領域だった。奥野准教授が研究テーマとしたのが、ジャバラ果皮の抗肥満作用だ。「肥満は、余剰なエネルギーを蓄積することで肥大化した脂肪細胞が増加することで起こり、高血圧・糖尿病・動脈硬化、そして脳卒中・心臓病などを引き起こすメタボリックシンドロームの原因といわれている。同じ柑橘類のシークワーサーの果皮の抗肥満作用が報告されていたため、ジャバラの機能性を見ていくことにした」と、奥野准教授は話を続ける。

肥満の予防・改善には3つのアプローチがあるとされている。「具体的には、『前駆脂肪細胞からの分化を促して、健全な脂肪細胞を増やす』『脂肪の蓄積を抑制して、脂肪細胞の肥大化を防ぐ』『肥大化した脂肪細胞に蓄積されている脂肪を分解して、脂肪細胞を小型化する』というのが基本だ。抗肥満作用では、これらの働きを検証していく必要がある。なお、“健全な脂肪細胞”を増やすとお伝えしたが、肥大化していない通常の脂肪細胞は、糖や脂質の代謝に必要な生理活性物質を分泌している」と、奥野准教授は解説する。

2013年、奥野准教授は、前駆脂肪細胞(3T3-L1株)を用いた実験に着手。数種の植物抽出物と比較した結果、ジャバラ果皮の水抽出物には前駆脂肪細胞に対する強い分化促進効果があることが確認された。さらに、ジャバラ果皮の水抽出物を脂肪細胞に添加することで、脂肪の蓄積が抑制されることもわかった。奥野准教授によると、「活性物質を調べたところ、3種のポリメトキシフラボノイドという成分が見出された。これらの働きによって、中性脂肪が脂肪細胞内に蓄えられるときに誘導されるGPDHという酵素が大幅に減少していた」とのことだ。

奥野准教授の研究でジャバラの抗肥満作用や血糖値の上昇抑制作用などが明らかになりつつある

奥野准教授が次に検証したのが、ジャバラ果皮の水抽出物の脂肪分解効果だ。脂肪細胞内に蓄積された脂肪が分解されると、「脂肪酸」と「グリセロール」となって細胞外へ排出される。「実験では、細胞外に出てきたグリセロール量を測定することで脂肪分解効果を評価した。その結果、ジャバラ果皮を添加した脂肪細胞からは、添加していない脂肪細胞よりも多くのグリセロールが排出されていた。ジャバラ果皮が脂肪の分解に働きかけていることを意味する」と、奥野准教授は解説する。

なお、ジャバラ果皮の水抽出物による脂肪蓄積の抑制効果、脂肪分解の促進効果は、いずれもシークワーサー果皮に含まれるポリメトキシフラボノイドの一種であるノビレチン以上の強さであることが明らかになっているそうだ。奥野准教授は、「脂肪の蓄積はさまざまな段階を経て進行していき、それぞれのステージで特定の遺伝子やたんぱく質の発現が起こっている。ジャバラ果皮の作用機序の解明を進めた結果、先ほどのGPDHのほか、脂質の生成にかかわるPPARγと、脂肪細胞の代謝にかかわるGLUT4という遺伝子の発現が抑制されていることがわかった」と解説する。

その後の研究では抗肥満作用のほかに、糖をブドウ糖に分解するαグルコシターゼという酵素の働きをジャバラ果皮が阻害することもわかってきた。この効果によって食後血糖値の急激な上昇が緩やかになり、糖尿病の予防・改善が期待できるそうだ。

ジャバラ果皮の抗肥満作用について研究している和歌山工業高等専門学校の奥野祥治准教授

「ジャバラ果皮は、肥満や糖尿病の予防・改善に役立つ可能性を秘めている。今後は、炎症誘発物質の減少効果なども確認していきたい。基礎的なデータのほか、動物実験やヒト試験で必要なデータが集まれば、機能性表示食品の届出も可能となる。新商品の開発を目指していきたい」と、奥野准教授は今後の展望を語ってくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。