ヒシ外皮の高血糖抑制効果、明らかに!実は焼酎に、外皮はダイエット茶に──ヒシをまるごと有効活用

地域発

地元の酒造メーカーから実を原料とするヒシ焼酎が開発されるなど、ヒシの消費拡大に力を入れてきた佐賀県神埼市。同市にある西九州大学の安田みどり教授は、ヒシ焼酎の製造過程で廃棄される外皮の機能性研究を続けている。2012年には動物実験で、2013年にはヒト試験でヒシ外皮エキスの食後高血糖抑制効果が確認された。2019年10月からは、ヒシ外皮を粉末にした茶の体脂肪低減効果の検証が進められている。

ヒシは佐賀県神埼市の特産品の一つで“ヒシ焼酎”などが販売されている

ヒシはミソハギ科の水草の一種。堅い外皮の中には、甘くサクサクしたクリのような実が入っている。かつては全国各地で食されていたが、現在、ヒシの食文化が残るのは一部の地域に限られている。そのうちの一つが、佐賀県神埼市だ。農業用水路で栽培されているヒシを、たらいに乗って収穫する光景が秋の風物詩となっている同市には、ヒシを外皮ごと煮て中の実を間食する食文化がある。ガン、婦人病、胃腸病、便秘、糖尿病などに効果があると伝えられてきたゆで汁も、大切にされてきたそうだ。

ヒシのゆで汁の健康効果に注目しているのが、西九州大学健康栄養学部の安田みどり教授だ。「地域の人が古くから健康のために飲んできたヒシのゆで汁には苦味がある。一般的に苦味が特徴とされているポリフェノールが外皮には含まれていると考えた。2004年には、ヒシのゆで汁のポリフェノール含有量と抗酸化活性を明らかにした」と、安田教授は振り返る。

神埼市では、2009年ごろからヒシを使った特産品の開発が進められていた。同市の後押しを受けた地元の酒造メーカーがヒシの実を原料とする焼酎の開発に成功したものの、製造の工程で外皮は廃棄されていた。安田教授によると、「外皮の有効活用の促進を提案して、神埼市の支援のもと実験を行なった結果、2011年、ヒシのゆで汁にオイゲニイン、トラパイン、TGGといったポリフェノールが主に含まれていることがわかった」とのことだ。

3種類のポリフェノールの機能性を調べていくと、糖質の吸収抑制作用があるα-アミラーゼ阻害活性とα-グルシコダーゼ阻害活性が確認された。「2種類の酵素阻害活性で糖質の吸収を緩やかにするヒシのゆで汁には、食後血糖値の上昇を緩やかにする効果があると見るのが自然だった」と話す安田教授。2012年には、マウスを使った実験で仮説を証明した。

実験のようす。写真は安田教授

2013年には、健康な男女21人(男性4人、女性17人、平均年齢20.7歳)の協力のもと、ヒシのゆで汁の食後血糖値の上昇抑制効果を検証するヒト試験が実施された。試験参加者は人数と男女比にばらつきがないよう2つのグループに分けられ、10人には水200mlを、11人にはヒシの熱水抽出液200mlを飲んでもらい、その後、米飯200gを食べてもらった。

試験では食後血糖値の推移を確認するために、米飯を食べる前と食べた後20・30・45・60・90・120分の血糖値が簡易採血によって測定された。なお、ゆで汁に見立てて作製された熱水抽出液には、90℃のお湯1lに対しヒシの外皮50gを浸けてからろ過した後、冷却したものが使用されている。また、参加者は、試験前日は暴飲暴食や飲酒を控え、21時以降は水以外は口にしないという条件も設けられている。

3日後には、グループの構成は変えず、飲んでもらう水とヒシの熱水抽出液を入れ替えて同様の試験が行われた。試験の結果を比較すると、水を飲んでもらった回よりヒシの熱水抽出液を飲んでもらった回のほうが、食後20分と30分で血糖値が有意に低かった。食後45・60・90分の血糖値は、ヒシの熱水抽出液を飲んでもらった回のほうが低い傾向があった。食後120分の血糖値は、ほぼ同じになった。安田教授によると、「ヒト試験でヒシの外皮のゆで汁が持つ食後血糖値の上昇抑制効果を確認できた」とのことだ。

ヒシの外皮を粉末化した茶

安田教授はヒシの外皮を粉末化した茶を使って、さらなる研究を進めている。「糖質の吸収抑制作用は、肥満予防にも繋がる。2019年10月からは、ヒシの外皮の茶による体脂肪の低減効果をヒト試験で検証している」と、安田教授は現状を説明する。ヒシの外皮を原料とする健康茶などの開発に向けた機能性解明が精力的に進められている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。