アズキの煮汁に含まれるポリフェノールが食後高血糖を抑制!アズキ食品を世界に届けていきたい 三重大学

地域発

三重大学大学院の栗谷健志助教は、アズキの加工食品の製造工程で廃棄される煮汁の機能性解明に取り組んでいる。これまでの研究で、アズキの煮汁にはα-アミラーゼやα-グルシコダーゼといった糖の代謝酵素の阻害作用があることが確認されており、加工を経てもそれらの働きは弱まらないことが明らかになった。栗谷助教はポリフェノールの単離にも成功しており、生体内における働きを今後の実験で検証していくと語っている。

マメ科の一種であるアズキは、古くから日本人の身近にあった。アズキが食されていた形跡が確認されたのは、縄文時代の遺跡といわれている。現在、国内では年間約59,000トン(2019年度)のアズキが生産されており、そのうちの9割以上を北海道産が占めている。一方で、兵庫県産の「丹波大納言」や岡山県産の「備中白小豆」など、各地の特色を活かした品種も知られている。なお、国内では、ほとんどのアズキが餡などの加工食品の原料として出荷されている。

日本人にとってアズキは縁深い食品だが、加工事業者は製造時に廃棄している煮汁の活用法を長らく模索してきた。アズキを煮るさい、大量の煮汁が廃棄されていたからだ。煮汁には、アズキから溶け出した栄養成分が含まれている。三重大学大学院生物資源学研究科の栗谷健志助教は、井村屋(三重県津市、前山健社長)と煮汁の健康効果の解明を進めている。

ポリフェノール が含まれている小豆浸漬液(左が加熱前,右が加熱後)

「私の所属する栄養化学研究室では2000年以降、アズキの加工食品を製造している井村屋と機能性研究を続けてきた。2004年、当時、井村屋製菓として営業していた井村屋を中心に行われた動物実験で、アズキが入った水を数分沸騰させて作った熱水抽出液に、食後血糖値の上昇を緩やかにする働きがあることが確認された。糖の代謝にかかわるα-アミラーゼやα-グルシコダーゼといった酵素の働きを、煮汁中のポリフェノールが阻害することで得られた効果だった」と話すのが、栗谷助教だ。

アズキの健康効果を世界に発信したいと話す三重大学大学院の栗谷健志助教

煮汁の有効性を示したところで実験はしばらく中断していたが、2017年に新たな研究が動き出した。栗谷助教が注目したのが、抽出液を加熱する時間がポリフェノールの構成や機能性に与える影響だった。栗谷助教によると、「2004年の実験では、アズキの熱水抽出液に含まれているポリフェノールの種類は特定されていなかった。熱に弱いポリフェノールであれば、実際の製造工程でアズキを煮るときに変質して機能性が損なわれている可能性があった」とのことだ。

栗谷助教は2019年、アズキの水抽出液と熱水抽出液の性質の違いを検証する実験に着手した。実験では、1,000mlの蒸留水に1,000gのアズキを漬けてポリフェノールを抽出した液が使用された。一晩漬け込んだアズキを抽出液から取り除くと、α-アミラーゼとαグルシコダーゼを阻害するポリフェノールの種類と作用の強さが検証された。その後、90分間の沸騰を経た熱水抽出液でも同様の項目について確認された。

その結果、αアミラーゼとα-グルシコダーゼを阻害する主なポリフェノールは、水抽出液ではカテキン化合物(C7G:カテキン 7-O-β-D-グルコピラノシド)が中心だったが、熱水抽出液ではエピカテキン化合物(E7G:エピカテキン 7-O-β-D-グルコピラノシド)の割合が増加していた。各酵素の50%阻害濃度は、加熱前と加熱後で同等だった。「アズキの抽出液に含まれるポリフェノールは加熱によって変化するが、食後血糖値の急上昇を緩やかにする作用は損なわれていないと考えられる」と、栗谷助教は解説する。研究成果は2019年、『Journal of Food Science』に掲載されることとなった。

煮小豆シリーズ。「煮あずき製法」という独自製法で煮汁のうま味と栄養成分を取り込むことに成功

アズキの煮汁からエピカテキン化合物を単離することに成功した栗谷助教は現在、糖の代謝酵素の阻害作用が生体内でも有効であることを証明するために、ヒトの腸管細胞やマウスを用いた実験を進めているそうだ。一方で、企業の商品開発にも注目したい。2017年には、製造過程で出る煮汁の栄養をアズキに閉じ込めた「煮小豆シリーズ」が井村屋から発売された。「機能性研究を通して、健康増進に役立つアズキ商品の普及に貢献したい。日本だけでなく世界にアズキの魅力が広まるきっかけになれば」と、栗谷助教は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。