キャベツ酢のグルコース吸収抑制作用を確認、出荷規格外“嬬恋高原キャベツ”の有効利用へ 前橋工科大

地域発

群馬県嬬恋村の名産品として知られる「嬬恋高原キャベツ」。前橋工科大学の本間知夫教授は、出荷規格外の嬬恋高原キャベツをもとに群馬県農業技術センターで開発された「キャベツ酢」の機能性研究を進めている。これまでの研究で、キャベツ酢は穀物酢や酢酸溶液より少ない量でグルコースの吸収を抑制することが明らかになっている。

キャベツはアブラナ科の多年草で、15〜20℃の冷涼な気候が栽培には適している。緯度や標高などでキャベツの“旬”は異なり、収穫時季を冠する「春キャベツ」「夏秋キャベツ」「冬キャベツ」が全国に出荷されている。夏秋キャベツの生産量日本一を誇るのが群馬県だ。同県では、国内における夏秋キャベツの総生産量の半数以上に相当する約27万tが毎年生産されている。群馬県の中でも、夏秋キャベツの産地として有名な地域が吾妻郡嬬恋村だ。

嬬恋村では高原の冷涼な気候のもと「嬬恋高原キャベツ」が生産されている

標高700〜1400mに位置する嬬恋村では、高原の冷涼な気候のもと年間約21万tの夏秋キャベツが生産されている。嬬恋村産の夏秋キャベツの葉は柔らかく強い甘みを持ち、市場での評価が高い。2008年に地域団体商標として登録された「嬬恋高原キャベツ」は、嬬恋村農業協同組合(群馬県吾妻郡嬬恋村、丸山義明組合長)から全国に届けられている。

嬬恋高原キャベツのブランド化が進められてきた一方で、出荷規格外キャベツの有効活用を求める生産者の声も上がっていた。そこで群馬県農業技術センターはキャベツの利用拡大と地域特産の農産加工品開発の一環として、2016年に嬬恋村および川場村農産加工(群馬県利根郡川場村、山口登社長)とともに、嬬恋産キャベツの特長を活かしたキャベツ酢を開発した。キャベツ酢は現在、嬬恋村産の農産物の加工を手がける妻の手しごと(群馬県吾妻郡嬬恋村、松本もとみ代表)から「嬬恋キャベツ酢」として販売されている(トップの写真は同社提供)。

2017年、群馬県農業技術センターは、キャベツ特有のビタミンUや遊離アミノ酸を多く含むことなど、食酢としてほかにはないキャベツ酢の品質特性を明らかにした。最近、食酢の健康効果を期待して“飲む酢”が流行っている。こうした背景を踏まえ、同センターは、キャベツ酢の機能性の検証を前橋工科大学工学部の本間知夫教授に依頼した。「地域貢献は公立大学に所属する研究者の使命」と語る本間教授は、群馬県で生産が盛んなクワ・ウメ・コンニャクなどを対象として、栽培技術の開発や健康効果の研究を手がけている。

本間教授によると、「食酢として普及している穀物酢には、食後血糖値の上昇を緩やかにする効果があると報告されている。食酢の主成分である酢酸の作用と思われるが、調べてみると詳細はよくわかっていないようだった。食品成分は腸で消化・吸収される。消化・吸収には腸の動きも関係する。腸管機能を指標として、食品成分の働きを調べるのは重要だ。キャベツ酢についても腸管機能に及ぼす作用を調べることにした」とのことだ。

本間教授は、糖質が分解されてできるグルコースの吸収に対するキャベツ酢の作用を、マウスから取り出した小腸をもとに作製した反転腸管標本を用いた実験で検証していった。反転腸管標本とは、腸管内側の露出を目的として裏返された腸の標本のことだ。「本来、内容物は腸管内部を通過する。狭い腸管内部の場合、わずかな量の内容物しか入れることができないうえに、吸収された成分は標本を置いた容器内の緩衝液に拡散して分析が困難となる。腸管をひっくり返した標本を用いれば、実験がやりやすくなる」と、本間教授は解説する。

マウスから取り出した小腸をもとに作製した反転腸管標本

実験では、キャベツ酢・穀物酢・酢酸をそれぞれ0%・0.3%・0.7%の酸度に調整したグルコースを含む緩衝液計9種類を用意。各溶液に反転腸管標本を60分間浸漬した後、腸管1gあたりのグルコース吸収量が確認された。標本の長さによって、グルコースの吸収量は変化する。結果を正確に比較するために、分析には腸管1gあたり換算のデータを用いるそうだ。

実験の結果、キャベツ酢入り溶液、穀物酢入り溶液、酢酸入り溶液に浸漬された反転腸管標本のグルコース吸収量は、いずれも0.7%の酸度で最少となり、その値は酸度0%のときより有意に低かった。0.3%の酸度では、穀物酢入り溶液、酢酸入り溶液の場合は酸度0%のときと比べて有意な差はなかったが、キャベツ酢入り溶液では酸度0%のときよりも有意に低かった。

小腸のグルコース吸収を抑制する作用は、すべての溶液に含まれている酢酸によるものであることがわかった。穀物酢や酢酸溶液ではグルコースの吸収を抑制できなかった低い酸度でも、キャベツ酢では作用が確認された。本間教授によると、「特有の成分が含まれているキャベツ酢は、ほかの食酢よりもグルコース吸収を抑制する作用が強い可能性がある。また、食酢が食後血糖値の上昇を穏やかにするのは、腸管レベルで糖の吸収を抑制していることが本研究からも明らかになった」とのことだ。

本間教授は今後、キャベツ酢に含まれる酢酸以外の成分とグルコース吸収の抑制作用の関係、酢酸がグルコースの吸収を抑制するメカニズムを調べていく。「キャベツ酢が健康の維持・増進に役立つことが認知されれば、規格外キャベツをより多くの消費者に届けられるかもしれない。研究を続けて、キャベツ酢がほかの食酢より優れた機能性を有することを示すことで付加価値向上に貢献したい」と、本間教授は話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。