新潟県は、全国2位の西洋ナシの生産量を誇る。同県における主要品種は、“幻のナシ”と呼ばれる「ル・レクチェ」だ。新潟大学大学院の児島清秀教授は、ル・レクチェの機能性研究を続けている。2019年には、収穫果よりも強い活性酸素消去能が幼果の果皮にあることが報告された。
西洋ナシは、ヨーロッパ原産のバラ科ナシ属の落葉果樹。明治時代から日本で栽培が始まり、信越地方や東北地方といった冷涼な気候が続く土地で普及した。西洋ナシの生産量で全国2位を誇る新潟県では、フランスから伝わった“ル・レクチェ”が主に栽培されている。甘く豊潤な香りが特長で、贈答品としても人気が高く、市場では高値で取引されている。高付加価値の果樹生産を推進している新潟県では、ル・レクチェの栽培面積の拡大を推進しているが、病気に弱い同品種の管理には手間がかる上に幼果が落ちやすいため、生産者が新たに栽培を始めるハードルは高いとされる。
新潟大学大学院自然科学研究科の児島清秀教授は、2008年からル・レクチェの効率的な生産方法について研究している。2009年には、ル・レクチェの食べごろを音波によって判断する技術を開発。2015年以降は、幼果の有効活用法を研究してきた。「抗酸化作用のあるポリフェノールを多く含む農産物は、切り口が空気に触れると褐色に変化する。ル・レクチェも褐色に変化しやく、幼果にはポリフェノールが多いと考えた」と話すのが児島教授だ。
児島教授は2019年、ル・レクチェの収穫果と幼果のポリフェノール濃度と活性酸素消去能を、果皮と果肉に分けて検証した。その結果、果皮と果肉のいずれも、ル・レクチェの幼果に含まれるポリフェノール濃度は収穫果の約3倍だった。一方の活性酸素消去能は、幼果の果皮は収穫果の約1.2倍で、幼果の果肉の活性酸素消去能は収穫果の約0.7倍だった。
西洋ナシには、ポリフェノールの中でもクロロゲン酸が多く含まれていることが報告されている。ポリフェノール濃度を確認した児島教授は、さらにル・レクチェのクロロゲン酸濃度を調査した。その結果、幼果の果皮のクロロゲン酸濃度は幼果が収穫果の約17.5倍。幼果の果肉のクロロゲン酸濃度は収穫果の約12倍であることがわかった。
児島教授は、「クロロゲン酸には、抗酸化作用のほか、血糖値の上昇抑制作用・血圧改善作用・抗ガン作用などがある。もちろん、ル・レクチェにはクロロゲン酸以外のポリフェノールが含まれているだろう。収穫前に落下して廃棄されているル・レクチェの幼果を、健康食品や健康飲料として有効活用できるのではないか」と語る。現在、ル・レクチェに含まれるポリフェノールの詳細について分析を進めている。
新潟県は、2016年に1780tだったル・レクチェの生産量を2025年までに37%増やす方針で、接ぎ木による大規模生産化を検討している。栽培に手間がかかるル・レクチェだが、落ちてしまった幼果の有効活用法が確立されれば、大規模生産化にはずみがつくはずだ。未利用資源の機能性研究が、地域経済の成長を後押ししていく。