近大マンゴー、17品種の“剪定葉”の抗糖化活性を徹底検証!国産のAGEs対策サプリ開発に向けて前進

大学発

近畿大学附属農場の伊藤仁久講師は、廃棄されているマンゴーの葉の有効活用法を2014年から研究している。2020年5月には、附属農場で栽培されている17品種のマンゴー葉エキスを検証し、そのうち15品種に糖尿病合併症を引き起こす終末糖化産物(AGEs)の産生を阻害する働きがあることを明らかにした。15品種の中には、日本における主要品種“アーウィン”も含まれる。マンゴーの葉の安定供給は可能と見られており、サプリメント原料としての活用が検討されている。

廃棄されているマンゴー葉エキスの抗糖化作用が明らかになりつつある。写真は近畿大学附属農場で栽培されているアーウィン種

マンゴーは、インド地方や東南アジアが原産とされるウルシ科マンゴー属の常緑果樹。栽培は4000年以上前に始まったといわれている。ヒンドゥー教や仏教で“聖なる果物”に位置づけられているマンゴーは、信仰が広まるにつれてアジア各地で栽培されるようになった。現在、1000以上の品種が確認されている。国内の主要産地は沖縄県・宮崎県・鹿児島県で、流通している多くは“アーウィン”という品種だ。

近畿大学附属農場の伊藤仁久講師は、同農場内で年間1t以上廃棄されているマンゴー葉の機能性解明を2014年から進めている。これまで近畿大学はクロマグロの完全養殖を成功させ、いわば海を耕してきた。そして2008年、同大学はマンゴーの新品種である“愛紅”を国内で初めて品種登録するなど、果樹栽培研究の先進的役割も担っている。「近畿大学は、附属農場の一つである湯浅農場で愛紅を含む世界から収集した17品種の栽培技術や機能性について研究しており、インドやタイでは古来カレーやソースの材料に使用されてきたほか、生でも食されてきたマンゴーの葉をサプリメント原料として活用できないか検討している」と話すのが伊藤講師だ。

近畿大学附属農場の伊藤仁久講師

伊藤講師は2016年にアーウィンの葉のリパーゼ阻害活性を、2017年にAGEs産生阻害活性を明らかにした。肥満や糖尿病合併症の予防・改善に役立つ可能性を示す研究結果だ。機能性成分として、マンゴー葉に含まれるベンゾフェノン・マンギフェリン・クロロフィルといったポリフェノールが確認されている。

現在、伊藤講師が特に注目しているのが、マンゴーの葉のAGEs産生阻害活性だ。「一般に植物由来抽出エキスに含まれる機能性成分は多くても5%程度であるのに対して、マンゴー葉エキスの30〜40%程度がAGEs産生阻害活性成分だと判明したとき、サプリメント原料としてのマンゴー葉に将来性を感じた」と伊藤講師は説明する。ただ、アーウィン以外の海外で生産が盛んな品種のAGEs産生阻害活性の強度は不明であった。伊藤講師は早速、アーウィンとほかの品種の葉のAGEs産生阻害活性を比較した。

近畿大学附属農場が保有する17品種のマンゴー葉エキスのAGEs産生阻害活性を比較

2020年5月、伊藤講師は近畿大学附属農場が保有する17品種のマンゴー葉エキスについて、AGEs産生阻害活性を比較検証した。その結果、最も強い阻害活性を示した品種は、インドなどで生産が盛んな“アルフォンソ”の葉のエキスで、50%阻害濃度(IC50、値が低いほど活性が強いことを意味する)は11μg/mlだった。また、アーウィン葉および愛紅葉エキスのIC50はそれぞれ43μg/ml、31μg/mlであり、検討したほとんどすべてのマンゴー葉エキスに有効性が認められた。

伊藤講師によると、「マンゴーの葉は、ほかの植物素材と比較してもAGEs産生阻害活性が強い。これまで着目してきたアーウィンの葉以外にも、世界じゅうで栽培される多くのマンゴー品種がサプリメント素材として利用可能だということが今回の比較研究によって判明したと考えている」とのことだ。今後、マンゴー葉のAGEs産生阻害活性の詳細なメカニズムの解明や安全性の確認が進められていく。

生活習慣病の一つである糖尿病患者は現在、国内で1000万人以上いるといわれている。糖尿病が悪化すれば、糖尿病神経障害・糖尿病網膜症・糖尿病腎症などさまざまな合併症が生じる。国は糖尿病の合併症対策を進めており、近年ではAGEs産生阻害活性の研究も進展している。廃棄されていたマンゴー葉の機能性研究は、日本人の健康寿命延伸の一手となる可能性を秘めている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。