非アルコール性脂肪性肝疾患の予防にユズ果皮エキスを!加工残渣をサプリ原料として有効活用 大分大

地域発

大分大学理工学部の石川雄一教授は、鈴木絢子助教、信岡かおる准教授とともに、ユズ果皮エキスに非アルコール性脂肪性肝疾患の抑制効果があることを明らかにした。ユズは隔年で収穫量の増減が激しく、長期にわたって販売できる新たな加工品の開発が待望されてきた。石川研究室は現在、サプリメントや機能性表示食品の開発を目指している。

大分県は全国6位のユズの生産量を誇る。年間に約929t生産されるユズの多くは加工利用が中心で、主にジューズや食酢として流通している。ただ、ユズは隔年で収穫量が大きく増減するため、収入の変動に悩まされている生産者は少なくない。豊作年のユズを使用して不作によって苦戦を強いられる年の減収分を補おうと、長期にわたって保存できる乾燥ユズ果皮の製造法も検討されてきたが、高いコストがハードルとなっている。

ユズは大分の特産品の一つ。大分大学ではユズ果皮エキスの機能性研究が進められている

生産者の収入を安定させるための新たな方策が求められる中、大分大学理工学部の石川雄一教授は、農作物の代謝を制御する葉面散布剤をファームテック(大分県佐伯市、三浦好社長)と共同開発していた。2005年、柑橘の増産につながる散布剤について大分県柑橘試験場(現・農林水産研究指導センター)の場長と対談したさい、完熟ユズの果皮に含まれるアブシジン酸という植物ホルモンを農作物の高品質化に活用できる可能性について議論したそうだ。これが、ユズ果皮エキスの抽出を試みるきっかけとなった。石川教授は現在、搾汁時に残渣として大量に廃棄されているユズ果皮の機能性を研究している。

石川教授によると、「最初に取り組んだのは、ユズ果皮エキスの保健機能の検証だった。大分大学医学部の伊波准教授と研究を進めた結果、活性化したNF-κBというたんぱく質の動きをユズ果皮エキス中の成分が低減すること実証し、特許発表した」とのことだ。悪性腫瘍では多くの場合、炎症反応を誘発するNF-κB が常に過剰に活性化している。特許(特許第4803553号)では、過度に活発化したNF-κBの動きをユズ果皮エキスによって抑制できることが示されている。

伊波准教授との研究と並行して、ユズ果皮エキスの抗アレルギー作用も検証された。「大分県立看護科学大学でアレルギー研究を勢力的に展開している市瀬研究室と共同研究を進めたところ、マウスを使った実験などで、ユズ果皮エキスがⅠ型アレルギーの軽減をもたらすことが確認された」と石川教授は振り返る。

アレルギーの症状抑制(引用元:アレルギーの臨床33(9)2013)

これらの動きは、大分県内の企業との連携につながった。2009年、Ⅰ型アレルギー症状の抑制効果に注目したつえエーピー(大分県日田市、長田英徳社長)によって、ユズ果皮エキスを原料とする健康飲料「柚子の力」が2009年に商品化された。

2014年からは、ショ糖(砂糖)で意図的に脂肪肝としたラットに対するユズ果皮エキスの効果の検証が進められた。その結果、ユズ果皮エキスに含まれるミオイノシトールという糖アルコールに、脂肪肝を抑制する働きがあることが明らかになった。脂肪肝は放置すると、肝炎、肝硬変、さらに肝ガンへと進行する。2016年には石川研究室に鈴木絢子助教が加わり、これらの肝障害に対するユズ果皮エキスの効果が確認された。

その後、2018年には、非アルコール性脂肪性肝障害に対するユズ果皮エキスの効果がラットを用いた実験で検証された。ラットは、通常のエサを与える6匹、非アルコール性脂肪性肝障害を誘発するエサだけを与える6匹、非アルコール性脂肪性肝障害を誘発するエサに総量比1%のユズ果皮エキスを加えた6匹、非アルコール性脂肪性肝障害を誘発するエサに総量比2%のユズ果皮エキスを加えた6匹に分けられ、14日間にわたって飼育された。飼育期間の終了後、肝臓の炎症の度合いを示す血清ALTという数値が測定された。

その結果、肝障害を誘発するエサだけを与えた群は血清ALTが上昇していた。一方、肝障害を誘発するエサにユズ果皮エキスを加えた群は血清ALTの上昇が抑制されていた。エサにユズ果皮エキスを加えた群同士で比較すると、総量比1%群より総量比2%群のほうが血清ALTの値が低かった。「血清ALTだけではなく、顕微鏡で観察した肝臓の組織でもユズ果皮エキス添加群の肝臓への脂肪滴蓄積が抑制されていることを確認できた。非アルコール性脂肪性肝障害を抑制するユズ果皮エキスの成分は、ショ糖に誘発される脂肪肝に効果があったミオイノシトールだけではないことを見出した。現在、有効成分の特定と作用機序の解明を進めている」と石川教授は解説する。

ユズ果皮エキスの研究を続けている大分大学理工学部の石川雄一教授

日本の非アルコール性脂肪肝炎の潜在患者数は100万〜200万人と推計されている。肝硬変患者のうち、非アルコール性脂肪肝炎が原因と診断された割合は、2008年は0.8〜2.1%だが、2011年は3.7%に上昇した。国は現在、非アルコール性脂肪肝炎の対策を進めている。石川教授は、「有効成分の特定後、その成分を効率的に抽出する方法を確立することができれば、非アルコール性脂肪性肝疾患をターゲットとする大分発のサプリメントや機能性表示食品の開発が実現するかもしれない」と語っている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。