紅藻類ダルスのフィコエリスリンに脳機能改善効果!コンブ養殖の厄介者を新たな資源として活用 北大

地域発

北海道大学大学院の岸村栄毅教授は、北海道周辺の海域で取れるダルスという海藻の機能性研究を進めている。ダルスには抗酸化作用の強い「フィコエリスリン」と呼ばれる色素たんぱく質が豊富に含まれており、動物実験では脳機能改善効果が期待できることが確認された。未利用資源だったダルスのニーズ拡大が見込まれ、陸上養殖実現に向けた動きも加速している。

ダルスは北海道周辺の海域に自生する紅藻類で、コンブ養殖の網などで繁茂する。たんぱく質やビタミン、ミネラルが豊富で、陸上植物には見られないとされるビタミンB12も含まれている。ダルスは北欧や北米では古くから食用や薬用として用いられてきたのに対し、日本では“厄介者”として扱われている。日光を遮り、コンブの生育を妨げてしまうからだ。現在、廃棄されるダルスの量は年間約13トンに上るという。

マコンブの養殖ロープに繁茂するダルス(安井肇教授提供)

1980年代から未利用水産資源の栄養成分について研究している北海道大学大学院水産学研究院の岸村栄毅教授は、2010年からダルスの活用法を模索してきた。海藻の研究者である同研究院所属の安井肇教授から成分分析の依頼を受けたのがきっかけだった。

「成分分析の結果、ダルスの赤い色素成分は、強い抗酸化能を有するフィコエリスリンというたんぱく質であることがわかった。カテキンなどの抗酸化物質には脳機能改善効果があることが報告されている。ダルスにも同様の効果が期待できると考えた」と、岸村教授は脳機能にフォーカスして研究を進めることになった背景について振り返る。

2013年から2016年にかけて、学習・記憶障害を持つ老化促進マウスを用いた動物実験が行われた。ダルス溶液摂取群10匹、カテキン溶液摂取群10匹、蒸留水摂取群10匹の3群にマウスを分け、40週間の飼育期間中、それぞれのグループの概日リズムと空間学習記憶能が測定された。

概日リズムは明期・暗期に摂取するエサの量によって評価され、飼育10週めから5週おきに計7回測定された。夜行性であるマウスは、体内時計とも呼ばれる概日リズムが維持されている場合、暗期の摂餌量が多くなる。「データを取りまとめたところ、概日リズムの乱れが最も小さいのはダルス摂取群だった。認知症患者の夜間徘徊の予防などに繋がる可能性を秘めている」と岸村教授は実験結果を解説する。

一方の空間学習記憶能は、「モーリス水迷路」を用いた試験で評価された。水の入った円形のタンク内でマウスを泳がせて、水面下にある足場に到達するまでの時間を測定することで空間認識能力を調べるというものだ。マウスにあらかじめ足場の位置を記憶させた後、7日間連続で試験は行われた。その結果、ダルス摂取群において到達時間が有意に短縮することがわかった。

未利用資源だったダルスの脳機能や腸内環境の改善効果が明らかになりつつある(岸村栄毅教授提供)

岸村教授は現在、ダルスに含まれる多糖類から調製したキシロオリゴ糖の腸内細菌叢改善作用についても検証を進めている。「ビフィズス菌を活性化させるキシロオリゴ糖は特保としてもおなじみの成分だが、流通しているのは陸上植物由来のものが主流だ。ダルスは水生植物で、陸上植物由来のキシロオリゴ糖とは異なる構造を持つ」と、ダルスから新規の機能性が見出される可能性についても岸村教授は言及している。

一連の研究の技術移転も進んでいる。2019年には、さかもと(大阪府茨木市、阪本務社長)によって函館産ダルスの安定生産が可能となった。研究成果の実用化をコーディネートしている北海道大学産学・地域協働推進機構の城野理佳子産学協働マネージャーによると、「ダルスの最盛期は真冬で、ほかの海藻との選別などの手間もかかる。生産性の向上が課題となるため、陸上養殖の研究も進められている」とのことだ。

ダルスを原料とする商品開発も進められている

日本の海域には約1500種の海藻が自生している。日本では古くから海藻になじみがあるものの、広く食されているのは100種類程度といわれている。未利用海藻の中には、ダルスのように貴重な栄養成分を含むものもあるはずだ。海藻の研究は、日本の食の豊かさを向上させる可能性を秘めている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。