飛騨高山名物の“宿儺カボチャ” レジスタントスターチが腸内環境を改善!宿儺カボチャ加工品も大好評

地域発

岐阜大学の早川享志教授は、岐阜県高山市丹生川町で生産されている「宿儺カボチャ」の機能性研究を進めている。最近の研究で、宿儺カボチャに含まれるレジスタントスターチには、腸内環境改善効果のあることがわかってきた。近年まで地域外であまり知られることのなかった特産品が、“高付加価値作物”としても認知されつつある。

宿儺かぼちゃ焼酎(JAひだ提供)

宿儺カボチャは、飛騨高山地域に位置する岐阜県高山市丹生川町の特産品の一つ。ヘチマのような細長い形状の白皮栗カボチャの一種で、糖度が高いのが特徴だ。2001年に商標登録されるまでは、地元民のみが知る自家用野菜として栽培されてきた。岐阜県では現在、過疎化が進む飛騨高山地域の名物にしようと宿儺カボチャの品種登録を目指している。

品種登録に先駆けて、岐阜県は宿儺カボチャの商品価値をアピールするために健康機能性の研究を岐阜大学に依頼した。白羽の矢が立ったのが、カボチャの主成分であるデンプン中のレジスタントスターチに詳しい岐阜大学応用生物科学部の早川享志教授だった。

宿儺カボチャはヘチマのように細長く甘みが強い

「カボチャには、一般的にレジスタントスターチが豊富に含まれている。レジスタントスターチは、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の長所をあわせ持ち、腸内環境改善効果が期待されている。宿儺カボチャにもレジスタントスターチが含まれており、腸内環境改善効果があると考えた」と、早川教授は研究当初のようすを振り返る。

2018年、宿儺カボチャ摂取による腸内環境改善効果が、ラットを用いた動物実験で検証された。ラットは、通常のエサのみを与えるグループと、大腸内の環境を悪化させるためにチロシンという必須アミノ酸を5%添加したエサを与えるグループ3群に分けられた。後者3群は、レジスタントスターチ未摂取群7匹、宿儺カボチャ粉末摂取群7匹、トウモロコシ由来のレジスタントスターチを多く含むハイアミローススターチ摂取群7匹である。なお、宿儺カボチャ粉末とハイアミローススターチの添加量は、エサ総量のレジスタントスターチが4%相当になるよう調整された。

ラットは自由にエサを摂取できる環境で飼育され、実験開始から7日めと13日めの糞と尿が分析された。また、実験終了後にはラットの盲腸を採取して、盲腸内容物の分析も行われた。

糞および盲腸内容物を分析した結果、宿儺カボチャ粉末とハイアミローススターチ摂取群は、レジスタントスターチ未摂取群に比べて糞中のグルコースと盲腸内の短鎖脂肪酸の一種であるn-酪酸が有意に増加していることがわかった。早川教授によると、「宿儺カボチャ粉末摂取群では、ハイアミローススターチ摂取群よりも顕著な効果が認められた。米ぬかよりも玄米のエサのほうが高いレジスタントスターチ効果が得られるという以前の実験結果と類似する。より多くのレジスタントスターチが大腸に届いた結果だろう」とのことだ。

また、尿中や盲腸内容物の有害産物であるフェノールやp-クレゾールは、レジスタントスターチ未摂取群では著しく増加したのに対し、ハイアミローススターチや宿儺カボチャ粉末の添加で大幅に減少することが確認された。盲腸内pHの低下も認められており、トータルとしての大腸内環境改善に宿儺カボチャ粉末が有効であることが明らかになった。

飛騨高山地域にある宿儺カボチャ畑

これらの結果について早川教授は、「大腸上皮細胞の活動エネルギーとなるn-酪酸や、腸内細菌の養分となるグルコースが腸内で増加したことを示している。大腸内のpHも低下したことで有害な腸内細菌の活動が抑えられる一方、有用な腸内細菌の活動は良好になる。n-酪酸は結腸上皮細胞の異常な分化を抑制するので、細胞のガン化を予防する可能性もある」と解説する。

現在、宿儺カボチャに含まれるレジスタントスターチが腸内環境改善効果をもたらすメカニズムのさらなる解明が進められている。「宿儺カボチャを摂取することで、腸内のビフィズス菌が増加することもわかってきた。摂取した宿儺カボチャが、腸内細菌に作用していると考えられる」と早川教授は話している。

宿儺カボチャのアイスクリームも誕生

飛騨高山地域のような山間地域では、栽培面積に限りがあり、農作物の商業利用のハードルは高い。一方で、険しい地形のためにほかの地域との交流が限られてきたからこそ、宿儺カボチャのような地域特有の農産物が大切にされてきた。宿儺カボチャは高付加価値作物として、過疎化に悩む山間集落の宝になる可能性を秘めている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。