未利用“葉”を活用 イチジク茶、アレルギーの症状緩和・増悪予防に有効か 民間伝承薬の機能性とは

地域発

イチジクの産地である兵庫県川西市。同市にある公益財団法人東洋食品研究所(三富暁人所長)では、イチジクの葉を用いた茶の機能性について研究を進めてきた。検証を重ねてきた結果、イチジク葉は、食品素材として、これまで報告されたことのない作用で、アレルギーの症状を和らげたり、増悪を防いだりすることがわかってきた。今後は、ヒトを対象にした試験を実施していく方針だ。

イチジクは果実の中に隠れるように花を咲かせ、花がないように見えることから「無花果」という漢字名を持つクワ科の植物。アラビア南部が原産地であるイチジクの日本における産地には、愛知県、和歌山県、大阪府、福岡県、兵庫県などが挙げられる。兵庫県川西市にある東洋食品研究所は、身近にあるイチジクの「葉」に目をつけた。

古来、食材のほか、民間伝承薬として、果実だけでなく葉も利用されてきたイチジク

1962年に設立された同研究所(2010年、公益財団法人移行認定)には附属農場があり、現在、約40種のイチジクが栽培されている。「イチジクは古来より、食材として、また民間伝承薬として、果実だけでなく葉も利用されてきた歴史がある。有効成分や健康への影響を現代の科学で明らかにするために、イチジクの研究を進めてきた」と話すのが、同研究所食品資源グループの阿部竜也所員だ。

東洋食品研究所の附属農場では現在、約40種のイチジクが栽培されている

同研究所の研究で、イチジクの葉には「カフェりんご酸」「ルチン」「イソシャフトシド」といったポリフェノールが豊富に含まれていることがわかっていた。このうち、カフェりんご酸とルチンには、ビタミンCやエピガロカテキンと同等の抗酸化力があることが確認された。また、イチジク葉のポリフェノールは5〜6月の若葉に多いことも明らかになっている。

抗酸化力を確認した後、同研究所では、新たな対象としてイチジク茶の抗アレルギー作用を検証していくことになった。「イチジク茶は、カフェりんご酸などの特徴的なポリフェノールを有しており、かつポリフェノールの一種であるカテキンやケルセチンでアレルギー抑制効果が報告されていることから、研究対象として興味を持った」という経緯だ。2013年、阿部所員らは培養細胞実験に着手した。

東洋食品研究所で試作されたイチジク茶

結論からいうと、イチジク茶には、花粉症をはじめとするI型アレルギーの症状を緩和する働きのあることが確認された。I型アレルギー発症時、体内は、細胞(炎症細胞)にIgE抗体が結合している「感作状態」にある。イチジク茶には、炎症細胞から抗体の解離を促し、感作前の状態に近い「脱感作状態」に戻す作用があると推察されているそうだ。

阿部所員いわく、「抗アレルギー作用というと、ヒスタミンの放出を抑えるものがほとんど。いまのところ、脱感作によってアレルギー症状を抑える食品はイチジク茶のほかには報告されていない」という発見となった。

阿部所員らは、ラットの好塩基球細胞株(RBL-2H3)を用いて、イチジク茶によるIgE抗体の解離作用の持続性について調査してきた。感作状態の細胞にイチジク茶を添加して抗体を解離させた後、再び、細胞に抗体あるいは抗体と茶液を触れさせ、炎症物質の放出量を測定するという内容だ。その結果、茶液の有無に関わらず、抗体を再度添加しても炎症物質の放出量は抑制され、感作状態に戻らないことがわかった。

イチジク茶が抗体の解離を促すことがわかってきた(東洋食品研究所提供)

「培養細胞実験の結果は、イチジク茶による抗体解離作用が持続することを示唆している。仮説だが、鍵と鍵穴のような関係をイメージしている。イチジク茶によって鍵が抜かれた鍵穴は、従来の形を崩してしまう。新たな鍵がうまくはまらない状態にあるのではないか」と、阿部所員は想定している作用機序を解説する。

その後、I型アレルギーのモデルマウスを用いて、「受動的皮膚アナフィラキシー(PCA)反応」を確認する実験を行ったところ、イチジク茶を飲ませることでアレルギー症状が抑制されることが確認された。

イチジク茶を飲むことでアトピー性皮膚炎の悪化が治まることが確認された。現在、ヒト試験を計画しているとのこと (東洋食品研究所提供)

また、I型を含む混合型であるⅣ型のアトピー性皮膚炎のモデルマウス(ダニ抗原を投与することで皮膚炎を発症するマウス)を使った実験では、イチジク茶を与えたマウスは水を与えていたマウスよりも炎症の程度が軽いことがわかった。抗原投与の実施を終え、アトピー性皮膚炎からの回復に対する影響を調査した結果、水の摂取群はアトピーによる皮膚の腫れが進んだのに対し、イチジク茶摂取群に症状の増悪は見られず、イチジク茶の回復促進効果が示唆されたそうだ。

現在、作用機序の解明とともに、アレルギー疾患を持つ10〜20人規模のヒト試験が計画されている。1年ほどかけて結果を取りまとめていく予定だ。機能性食品としての新規性が見出されたイチジクの葉。抗アレルギー作用が明らかになりつつある一方、注意すべき点もある。

「イチジクの葉には、グレープフルーツなど一部の柑橘類やセリ科植物と同じように“フラノクマリン”という成分が含まれており、降圧剤など、飲み合わせに注意が必要な薬がある。飲用時には摂取量に気をつけてもらいたい」と阿部所員は話している。同研究所では、フラノクマリンの除去法の開発や、果実の新たな機能性と機能性成分の探索にも取り組んでいる。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。