指宿の最高級カツオ節“本枯節”でアディポネクチン増加 出汁の生活習慣病の予防・改善効果に期待

地域発

鹿児島県指宿市の特産品「本枯節」によるカツオ出汁の摂取が、糖や脂質の代謝向上に役立つかもしれない。鹿児島女子短期大学生活科学科の住澤知之教授の研究で、本枯節の出汁には、善玉ホルモンとして知られるアディポネクチンを増やす働きのあることがわかってきた。

同市は、カツオ節の最高級品として知られる本枯節の日本一の生産量を誇る。カツオ節の産地としては同県枕崎市が有名だが、本枯節に限定すると指宿市のほうが生産量は多い。「指宿鰹節」のロゴを定めるなど、市を挙げてブランド化に取り組んでいる。

カツオ出汁には血液中のアディポネクチンを増やす働きがあることがわかってきた

医学部や医科大学にて、がん細胞の抗がん剤多剤耐性機構や毒物の毒性発現機構を、主に培養細胞を使って研究してきた住澤教授。2010年、鹿児島女子短期大学の教授に就任すると、教員として多忙な毎日を送りながら、“研究者としての役割”をあらためて模索するようになったという。「鹿児島県のカツオ節、指宿市の本枯節のブランド価値向上を私の研究が後押しできれば」という純粋な想いがあった。

種々の制約がある中、住澤教授は身近にあるカツオ出汁の健康効果を検証していくことになった。住澤教授によると、「研究に協力してくれる学生がいて、カツオ出汁なら摂取してもリスクはない。そこで、“何かおもしろい結果が出ればラッキー”ぐらいの軽い気持ちで、11人の女子生徒を対象に予備実験として、カツオ出汁を飲用してもらったところ、血液中のアディポネクチンが増えることがわかった。有意差も認められた」とのことだ。

「やせホルモン」とも呼ばれるアディポネクチンは、糖・脂質の代謝に関わるホルモン。2003年に東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授らがメカニズムを解明してから、メタボリックシンドロームや糖尿病の予防・改善に不可欠なキーマンとして注目されてきた。しかし、カツオ節など、日本人が日常的に摂取する食品とアディポネクチンの関係を明らかにした研究報告は多くなかった。住澤教授は「生活習慣病の改善に有効だと期待されているアディポネクチンを、身近な食品によって増やせるかもしれない」と、出汁の新たな可能性を探りつづけた。

薩摩半島の南端にある指宿市。本枯節のほか、そら豆やオクラの産地として知られている

2015年には、山川水産加工業協同組合(指宿市、地島幸平組合長)から本枯節の提供を受け、市の特定健診対象者54人を対象に、指宿市による研究委託事業が実施された。試験参加者には、62日間にわたって本枯節の出汁を飲んでもらい、その後に血液検査をした。さらに、インターバルを64日間置いてから、再び62日間の摂取期間を設けた。その結果、1回め、2回めの摂取期間ともに血液中のアディポネクチンの有意な増加が確認された。

「カツオ出汁に含まれるアンセリンというイミダゾールジペプチドがアディポネクチンの血中濃度向上に寄与しているのではないか」という住澤教授の仮説のもと、2016年には、14人の女子学生にサプリメントとして販売されているアンセリンを摂取してもらう実験が行われた。しかし、アンセリンによる血液中のアディポネクチンの有意な増加は認められなかった。

住澤教授は「結果は想定の範囲内。次に有効成分として考えられるのは、本枯節の低分子量のたんぱく質やオリゴペプチドだ。改めて検証していく」と研究のさらなる展望を描いている。今後は、培養細胞を用いた実験にも力を入れ、本枯節の出汁とアディポネクチンの増加の関係について精緻な分析を進めていく予定だ。

本枯節を使ったラーメンも指宿名物の一つ(写真は元祖指宿らーめん二代目)

「鹿児島県の薩摩半島の南部には、カツオ節を使った“茶節”という郷土料理がある。ユネスコ無形文化遺産に和食が登録され、出汁の文化もあらためて注目される中、カツオ節の最高峰である本枯節の健康機能性が明らかになれば、商品価値はより高くなるはず。お世話になっている地元生産者のためにも研究を成功させたい」と、住澤教授は自身の研究成果を地域経済に還元していく考えだ。

アディポネクチン増加という新たな価値が明らかになりつつある伝統的な特産品。人口4万人の指宿市から、日本を代表する健康機能食品が誕生するかもしれない。現在も、有効成分の特定や作用機序の解明を目的とした研究は続けられている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。