“シドケ”から機能性物質発見、産地の活性化期待 北東北で身近な特産品、認知拡大目指す

地域発

豊かな自然に恵まれている岩手県。岩手大学では、海の幸・山の幸など、県内にある身近な天然物に含まれる物質の分析や機能性の研究が進められてきた。これから旬を迎える山菜“シドケ”も、研究対象の一つだ。シドケからは、抗がん作用のある物質が発見されている。「新規バイオプローブ(低分子の生理活性物質)」の探索を続けてきた岩手大学農学部の木村賢一教授(応用生物化学科・天然物生化学研究室)に話を聞いた。

「生活習慣病の予防や改善効果の期待できる物質を、病気の酵母を用いたユニークなスクリーニング系によって地域資源から抽出・分析していき、活性が認められた場合、専門的に“バイオプローブ”と呼ばれる機能性成分を単離精製した後、構造や作用機序を特定していくという作業を続けている」と話すのが、木村教授だ。木村教授は2001年以降、1000種類以上の植物・食材・海藻といった天然資源の機能性について研究してきた。

バイオプローブの3次元HPLCを用いた単離精製

1000種類もの天然資源を分析しても、新規性のあるバイオプローブの発見に至るのは、ごくわずか。そうした中、木村教授は、久慈産琥珀の抗アレルギー作用などをこれまでに報告してきた。久慈産琥珀から世界に先駆けて発見された新規物質は“クジガンバロール”と命名され、商品化にもつながっている。

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木村教授が注目している岩手県産品の一つが、これから旬を迎えるシドケだ。「シドケは北東北3県で親しまれている山菜で、正式名称はモミジガサという。旬は4月下旬〜5月下旬で、独特の香りがしてほろ苦く、シャキッとした食感を楽しめる。おひたしや天ぷらといった調理法が定番のメニューだが、全国的な知名度は高いとはいえない」と、木村教授は東北地方ではなじみのある山菜のブランド力強化のために研究に着手した。

シドケ抽出物を分析していった結果、「ビサボラン型セスキテルペンのエンドパーオキサイド」という物質が発見され、研究の成果は2012年、木村教授によって学術誌で報告された。木村教授によると同物質は、「従来の抗がん剤とは異なる作用機序で、がん細胞にアポトーシスとネクローシスを引き起こす。試験管を用いた試験だが、簡単にいうとがん細胞を死滅させる」とのことだ。

バイオプローブの作用メカニズム解析(ウエスタンブロット)

シドケをはじめ、木村教授がこれまでに申請してきた特許の数は35を超えた。いずれも新規性・進歩性・有用性というのが条件となるが、健康の維持・増進に役立つ身近な食材は全国各地にまだまだ眠っているはずだ。

「残念ながら、シドケはいまのところは商品化には至っていない。シドケだけをたくさん食べればいいというものではなく、医薬品開発のハードルも高いかもしれないが、健康食品や特定保健用食品などへの応用は考えられるだろう。今後は高血圧、アレルギー、2型糖尿病への作用を共同で研究していく予定だ。地場産品に目を向けて新たな価値を見出すことができれば、地域活性化にもつながるのではないか」と、木村教授は話している。

現在、山菜の仲間であるフキを活用した焼酎が販売されている。木村教授らはシドケ焼酎の試作など、付加価値の高い商品開発にも取り組んでいるそうだ。研究成果の実用化への期待も高くなっている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。