シワヤハズという褐藻類に含まれる成分が、潰瘍性大腸炎を抑制するかもしれない。東京工科大学応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究グループが現在、カネリョウ海藻(熊本県宇土市)と共同で、潰瘍性大腸炎の患者を対象とした臨床試験の準備を進めている。
シワヤハズは本州や四国、九州に広く分布しているコンブやワカメの仲間だ。海藻で唯一、テルペノイド・ゾナロール(以下ゾナロール)という成分を産生する性質を持つ。
大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎だ。ストレスなどが引き金で炎症反応の暴走が起こって発症するとされる。患者数は約20万人で、1970年代以降著しく増加している。男女ともに20代での発病が多い。現状では「メザラジン」「ステロイド」「抗TNF-α抗体」といった薬剤による治療法あるが、これらの効果が認められない場合、大腸の切除や人工肛門での生活を余儀なくされることもある。治療がうまくいかない患者は少なくないため、新たな治療法の開発が期待されてきた。
佐藤教授らが潰瘍性大腸炎に対するシワヤハズの効果を科学雑誌「PLOS ONE(プロスワン)」に発表したのは2014年11月にさかのぼる。
【リンク】東京工科大学:褐藻類の成分が「潰瘍性大腸炎」を抑制することを発見、予防治療などへの応用に期待―応用生物学部
マウスの潰瘍性大腸炎モデルを用いてゾナロールの潰瘍性大腸炎の抑制作用を検討した結果、ゾナロールを経口投与すると、大腸における潰瘍が有意に抑制されることがわかった。また、試験管内では、炎症反応を有意に抑制する働きが確認された。ゾナロールが「Nrf2」と呼ばれる転写因子の活性化に作用し、炎症反応を抑制した結果、大腸の潰瘍の発生を抑制することによる。Nrf2には、酸化ストレスに対抗する酵素群を一括して制御する働きがある。
鹿児島大学で安全性の検証を進めながら現在、佐藤教授らのグループは、潰瘍性大腸炎の患者を対象とした臨床試験の実施を予定している。潰瘍性大腸炎は、症状が落ち着く「寛解」と「再燃」のサイクルをくり返す。臨床試験では総合病院の協力のもと、寛解期の潰瘍性大腸炎患者を対象に、メザラジンに加えて1日6gのシワヤハズ粉末を投与する計画だ。血中メディエーターを測定して、効果を確認する。病者用食品の開発を視野に入れながら、研究を続けていく予定だ。試験は2018年開始予定。
一方で、課題も残る。佐藤教授によると「有効成分のゾナロールだけを抽出するのが、現在の技術では難しい」とのこと。なお、佐藤教授の研究では、ローズマリーから抽出される「カルノシン酸」という成分にもNrf2を活性化させる働きがあることがわかっているそうだ。