DHAを豊富に含む養殖フグの肝油抽出技術の改良に成功 養殖事業者とともに機能性原料の開発目指す

大学発

東京医療保健大学の野口玉雄教授らの研究グループは、養殖フグの安全性や健康機能性について長年研究を進めてきた。養殖フグの肝油から抽出された豊富な「ドコサヘキサエン酸(DHA)」は、サプリメントの原料として活用できる可能性も秘めているそうだ。付加価値の高い商品開発や安全な養殖フグの肝食実現に向けた取り組みについて話を聞いた。

東京医療保健大学の野口玉雄教授はフグ毒について50年以上研究してきた

現在の食品衛生法では、未処理のフグ食の提供は認められていない。肝などに「テトロドトキシン」という毒が含まれているからだ。海中の食物連鎖によってフグが体内に猛毒を蓄えていくメカニズムを発見した野口教授は、フグ毒について50年以上研究を続けてきた一方で、1981年ごろから“管理の徹底された養殖フグ”が無毒であるというデータを蓄積してきた。

リンク:伝統食「フグ肝」の安全・安心な提供(野口教授インタビュー記事)

2004年以降、野口教授は佐賀県と同県内の養殖業者とともに、養殖フグが無毒であることを示すデータを3度にわたって厚労省に提出してきたという。養殖フグの肝食解禁や観光客の取り込みを見据えたフグ肝特区の設置を目指す動きだった。

野口教授によると管理の徹底された養殖フグの肝は無毒であることがわかってきたとのこと

フグの肝への思い入れが特に強いと語る野口教授によると、「京都の料理屋は、フグの毒抜きの技術を研鑽してきた。フグ肝の味は高く評価されている」とのことだ。2017年には特区構想を断念する結果となったが、野口教授は、肝油のサプリメント原料としての活用を視野に入れた研究を現在も続けている。

養殖フグの肝油は、機能性素材として実用化される可能性を秘めている。2018年に開催された日本調理科学会大会では、養殖フグから抽出された肝油の脂肪酸の含有量が報告された。具体的には、熊本県にあるフグの養殖業者の協力のもと実施された試験で、養殖フグの肝油に約17%の割合でDHAが含まれることが明らかになったというものだ。これは、魚油の中でもDHAの含有量が多いマグロと同程度の量になる。

野口教授は養殖フグの肝油のサプリメントとして利用することも視野に入れている

野口教授は、「2016年に、加熱処理後の養殖フグの肝臓から抽出した肝油のDHA含有量は約14%だった。機能性脂肪酸の抽出技術は改良されている。肝油は健康食品としての認知度も高い。養殖フグの肝油の研究と利用が進むきっかけになれば」と研究の成果を総括する。DHAは脳神経の機能維持に有効だとされており、高齢化に伴って日本におけるニーズも増している。

安全性のデータがさらに増えていけば、一度は断念することとなった養殖フグの肝食が認められる日がくるかもしれない。野口教授は、「40年近く、養殖フグの無毒化のデータを蓄積してきた。無毒フグの認可実現は、フグの養殖に携わる水産漁業者の悲願だ。付加価値の高い新たな商品を提供できる可能性も秘めている。肝食復興を実現したい」と語っている。今年で83歳となる野口教授には、大勢の門下生がいる。彼らが研究を受け継ぎ、無毒フグの研究はさらなる進展を見せていくだろう。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。