“色落ちスサビノリ”に含まれる低分子ポルフィランの抗炎症作用を確認!養殖ノリの新たな価値を発信

地域発

スサビノリに含まれる「ポルフィラン」には、抗炎症作用があると報告されている。長崎大学水産学部の小田達也名誉教授の研究では、色落ちノリ由来ポルフィランのほうが生育のいいスサビノリ由来のものよりも強い抗炎症作用を持つことが確認された。色落ちノリに多い低分子のポルフィランが、抗炎症作用の決め手となっているそうだ。一連の研究は、商品価値の低い色落ちノリの評価を変える可能性を秘めている。

福岡県・熊本県・長崎県・佐賀県に囲まれた有明海。河川から流れ込む淡水と海水が混ざり合う“九州最大の湾”では、干満差を活かしてスサビノリが長年養殖されてきた。スサビノリを板状に加工してできる「有明海苔」は、全国屈指のブランド海苔として知られている。一方、養殖現場では栄養塩の低下など生育環境の悪化によって商品価値の低い色落ちノリがたびたび発生しており、生産者を悩ませてきた。

正常ノリ(左)と色落ちノリ(右)

色落ちノリの有効活用法が模索される中、長崎大学水産学部環境科学総合研究科の小田達也名誉教授は、スサビノリに含まれる「ポルフィラン」という多糖体の研究を進めている。「大学では、ヌメリ成分でもある海藻の多糖体について研究してきた。具体的には、コンブ・ワカメ・モズクといった褐藻類など研究対象だった。紅藻類であるスサビノリのポルフィランの生理活性を見るようになったのは、2010年ごろからだろうか」と話すのが、小田名誉教授だ。

褐藻類には、アルギン酸やフコイダンなどの機能性多糖体成分が含まれている。研究の経緯について小田名誉教授は、「佐賀大学でスサビノリの構造解析などが進められていた。スサビノリに特異的に存在する多糖体ポルフィランは、フコイダンと同じ硫酸基を構造に持つことがわかっている。色落ちノリからもポルフィランが取れることを確認した後、フコイダンと同じような免疫賦活作用があるか調べてみた。マクロファージという免疫細胞にスサビノリ由来ポルフィランを添加してみたのだが、意外にも活性は認められなかった」と振り返る。

小田名誉教授が次に検証したのが、抗炎症作用だった。細菌の細胞壁成分で内毒素として知られている「リポポリサッカライド(LPS)」で刺激したマクロファージにポルフィランを添加したところ、炎症の指標となる腫瘍壊死因子α(TNF−α)というサイトカインの放出や一酸化窒素の産生が抑制されることがわかった。実験をくり返すと、ポルフィランの分子量や濃度が抗炎症作用の強さに関係していることも確認されたという。

小田名誉教授によると、「色落ちノリの有効活用法を探る目的があったため、生育状態の異なるスサビノリの効果を比較していった。その結果、生育のいいノリよりも色落ちノリから多く得られる低分子のポルフィランのほうがより強い抗炎症作用を持つことがわかった。栄養不足の状態で生育の悪い色落ちノリは、高分子の大きなポルフィランを作りきることができない。それが優位性につながっているようだ。色落ちノリ由来ポルフィランの活性は、濃度依存的に増していくこともわかった」とのことだ。

その後、小田名誉教授は動物実験を行った。LPSと同時にポルフィランを静脈内投与することでマウスの生存率はLPS単独投与よりも顕著に上昇し、血液中のTNF−αも減少することが確認された。「ポルフィランには、転写因子の核への移行を止める働きがあると見ている。骨粗しょう症など骨の病態と関係している骨代謝の改善効果も、細胞を使った実験では示唆されている。ポルフィランの添加によって、破骨細胞が優勢となる状況を抑制することができた」と小田名誉教授は解説する。

今後の課題は、スサビノリを実際に食べたときの消化・吸収による影響の検証だ。「大切なのは低分子化と見ているが、ヒトに対する健康効果の解明にもつなげていきたい。色落ちノリの一部は佃煮などの加工品の形で流通しているものの、付加価値でいうと有明海苔にはかなわない。生育のいいノリ、色落ちノリ問わず、有明海で養殖されているスサビノリ全体の価値を高めることができれば」と、小田名誉教授は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。