アケビ種子油の機能性脂質“DAGA”、抗肥満作用解明なるか!アケビの生産・消費拡大も期待 秋田大

地域発

アケビ種子油の肥満抑制効果が、秋田大学の池本敦教授の研究で明らかになってきた。秋田県西木村(現仙北市西木町)の地域おこしの一環として、いまでは搾油されることのなくなったアケビ種子油の再生産を目指している。種子を得るために必要なアケビの栽培拡大も検討されており、新たな産業に発展する可能性がある。

アケビの種子

秋田県は、日本では馴染みの薄い「アケビ」という果実の産地の一つ。郷土史には、アケビを余すことなく活用してきたことが記録されている。特に、種子を搾って得られる油は「食用油の王様」として珍重され高値で取引されていた。昭和の終戦後に海外原料から大量に作られる安い食用油が普及すると、アケビ種子油は生産されなくなった。

秋田県仙北市西木町は地域おこしの一環として2003年以降、村で伝承されるアケビ種子油の復活に取り組んできた。アケビ種子油は、1000個のアケビから1㍑しか取ることができない。生産効率が悪く、商品価格が高額になってしまうため、機能性食品として商業ベースに乗せることが検討されるようになった。

乾燥中のアケビ種子

アケビ種子油の特性について研究しているのが、秋田大学教育文化学部の池本敦教授だ。池本教授は薬学研究科にて博士号を取得した後、食用油の機能性研究に携わってきた経歴を持つ。「世界の食用油について知りつくしているつもりだったが、アケビの種子から食用油を得ていたことに驚いた」と、池本教授はアケビ種子油との出会いを振り返る。

池本教授がアケビ種子油を分析したところ、「DAGA(1,2-ジアシルグリセロ-3-アセテート)」という脂質の存在が確認された。「DAGAはほかの食用油からは見つかっていないアケビ特有の脂質で、生理機能に興味を持った」と話す池本教授は、動物実験に着手した。

アケビ油(精製前・精製後)とアケビ果皮粉末

2006年、マウスを用いた実験で、アケビ種子油の健康効果が検証された。アケビ種子油を混ぜたエサを与えるグループ8匹と、同量の油脂分を含む通常のエサを与えるグループ8匹の2群に分け、8週間の飼育後に、内臓脂肪の蓄積しやすい精巣上部の脂肪重量を調べるという実験だ。なお、アケビ種子油はエサ総量の10%に調整されている。

その結果、アケビ種子油摂取群の体重は、通常エサ摂取群よりも約14%低かった。さらに、アケビ種子油摂取群の精巣上部の脂肪重量は、通常エサ摂取群よりも約60%少ないことがわかった。この結果について池本敦教授は、「アケビ種子油の体脂肪蓄積抑制効果が示された。アケビ種子油を構成するDAGAは、吸収されにくいことがわかっている。吸収されなかった脂質はそのまま排出されるため、体脂肪蓄積の抑制に繋がる」と解説する。

機能性研究とともに、油の生産効率の改善や用途の検討も進められている。2017年に秋田市にある企業がアケビ種子油を商品化したが、1本(28g)あたり27,000円(税別)と高価なものとなった。「現在、少量のDAGAがエネルギー代謝を活性化して、体脂肪蓄積を抑制するメカニズムについても検証している。わずかな量で効果が認められれば、調理に使用している油の一部をアケビ種子油に置き換えるという使用法も可能となる」と、池本教授は今後の研究の展望を語る。

商品化されたアケビ油

一方で、池本教授はアケビの栽培拡大にも力を入れている。「秋田県や山形県にはアケビの果実だけでなく、皮も野菜として食べる文化がある。ナスのような食感で、ゴーヤのような苦味があるのが特徴だ。野菜としてアケビが普及していけば、取れる種子の量も増えていく」と池本教授は語っており、秋田県の農家や企業と連携しながらアケビ生産量を増やしていく方針だ。

油は、日本では古くから高価な生活必需品だった。各地で、地域の素材から油を得る工夫がなされてきた。時代の流れで忘れられる油もある一方で、アケビ種子油のように現代のニーズに応える素材が郷土史から見つかることもある。先人たちの知恵が、新たな産業として現代によみがえろうとしている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。