オホーツク海の“アカボヤ”から抗酸化物質発見!海の厄介者から独自性ある機能性食品開発へ 北海道

地域発

オホーツク海に生息するアカボヤは、根室など一部地域で特産品として親しまれているが、大部分は駆除・廃棄の対象とされている。サイズや水揚げ量のばらつきが大きく、持続的かつ安定的な生産が求められる加工原料に不向きである上、大量発生するとホタテガイの生育に悪影響を及ぼすことが指摘されているからだ。北海道立総合研究所機構と一般財団法人生産開発科学研究所は共同で、アカボヤの活用法について研究してきた。抗酸化作用に着目し、付加価値の高い商品の開発を目指している。

マボヤ科に属するアカボヤは冷水種のホヤで、日本では北海道周辺の海域にのみ生息する。オホーツク海においては、ホタテガイの桁曳きのときに混獲されている。塩漬けなどが根室地域のスーパーに並べられることもあるが、アカボヤは基本的に加工原料には不向きだ。

大量発生することによりホタテガイの生育に悪影響を及ぼすアカボヤを駆除・廃棄せずに活用する方法について研究している

アカボヤは根室地域の特産品である一方で、ホタテガイのエサとなる漁場内のプランクトンを食べてしまう“厄介者”でもある。現在、アカボヤとホタテガイの漁獲量は、ともに減少傾向が続いている。北海道を代表する海産物のホタテガイを守りながら、アカボヤを廃棄物ではなく地域資源として安定的に有効活用する方策がオホーツク海では求められていた。

「マボヤが黄色やオレンジに近い赤橙であるのに対し、アカボヤは赤い色をしている。抗酸化活性のあるカロテノイドという色素成分が豊富に含まれていると考え、機能性食品としての活用を検証することになった。2015年のことだ」と話すのは、中央水産試験場の成田正直研究員だ。アカボヤの成分分析は、京都市にある生産開発科学研究所の眞岡孝至博士(薬学)よって行われた。眞岡博士はカロテノイド研究のスペシャリストで、750種類以上確認されているカロテノイドのうち、100種類以上の構造を同定してきた実績を持つ。

アカボヤからアスタキサンチン・ミチロキサンチン・フコキサンチン・ハロキサンチン・アロキサンチンなどが発見された

成田研究員の読みは当たった。2016年9月、眞岡博士がアカボヤを分析したところ、機能性を有する多数のカロテノイドが確認された。アカボヤには、腫瘍細胞増殖抑制効果のあるフコキサンチン、抗腫瘍活性のあるハロキサンチン、抗炎症作用のあるアロキサンチンなどが含まれていた。なお、アカボヤ中のカロテノイドの総量は、マボヤの約15倍になることもわかった。

アカボヤには、抗酸化作用・抗炎症作用・抗疲労作用のあるアスタキサンチンも豊富に含まれている。カロテノイドのうち、約17%がアスタキサンチンであることがわかった。最も多いカロテノイドは、約31%を占めるミチロキサンチンだった(脂肪酸化合物も含む)。眞岡博士によると、「ミチロキサンチンは2016年に発見されたばかりの希少なカロテノイドで、アスタキサンチンと同等の抗酸化活性がある。アカボヤの研究は、ミチロキサンチンの分析にも役立つ」とのことだ。

一方、地元漁業者との橋渡し役を務めた成田研究員は、「今回の共同研究では、産卵時期である9〜10月ごろにアカボヤのカロテノイドが増えていくことを確認することもできた。産卵の時期にアカボヤを採取できれば、駆除・廃棄の問題が解消され、付加価値の高い食品の開発にも繋がる」と、今後の展開に対する期待を語る。

アカボヤは、食用として広く流通しているマボヤよりも市場価値が低く評価されてきた。駆除と廃棄のコストがかかり、ホタテガイの漁獲にも悪影響を及ぼす厄介者という見方もあったが、根室域発、北海道の新たな海の幸に成長する可能性を秘めている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。