発酵そばの芽の有効性、間質性膀胱炎研究会で発表 静岡の企業・医療機関連携で臨床研究実施

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間質性膀胱炎の改善効果が期待されていた発芽そば発酵エキスの臨床研究の結果が2019年1月、「間質性膀胱炎研究会」にて報告された。不二工芸製作所(静岡県富士宮市、前島正容社長)で生産されているそばの芽を乳酸発酵した植物スプラウト。「発酵そばの芽」とも呼ばれる機能性素材の臨床研究は、静岡県立大学大学院薬食研究推進センターで実施された。間質性膀胱炎患者に対する有効性が、あらためて確認された形だ。

リンク:「発芽そば発酵エキス配合食品の間質性膀胱炎に対する効果」(第18回間質性膀胱炎研究会誌抄録集)

試薬となった「そばの芽ぐみFBP-100(以下、そばの芽ぐみ)」は、信州大学の茅原紘名誉教授が研究してきた発芽そば発酵エキスを原料とする粒食品。茅原名誉教授は、乳酸発酵によって、そばの新芽に含まれる「ルチン」が「ケルセチン」に変化することなどを発見・報告してきた。ケルセチンには、抗酸化作用・抗炎症作用のほか、抗アレルギー作用がある。

不二工芸製作所では水耕栽培によってそばの芽を育てている

中村病院泌尿器科センター(大分県別府市)の酒本貞昭医師は、間質性膀胱炎の症状緩和を目的として、そばの芽ぐみを治療に取り入れてきた。これまでに改善例が報告されてきたものの、単一施設における使用例であることから、複数の医療機関におけるヒト試験の実施が求められていた。

今回報告された臨床試験は、研究責任者である静岡県立大学大学院薬食研究推進センターの山田静雄センター長、中村病院泌尿器科センターの酒本医師、間質性膀胱炎の患者が多数通院しているかげやま医院(静岡市)の影山慎二院長による共同研究として実施された。

「間質性膀胱炎はとても苦しい病気。執念を持って治療法を探している人は多い。酒本先生の発酵そばの芽の報告を過去に見て、私の病院でも効果を検証してみたいと思っていた。つらい思いをしている患者さんに一つの解を示すために研究に参加した」と語るとおり、影山院長の間質性膀胱炎の治療にかける情熱には並々ならぬものがある。

乳酸発酵して得られるエキスをカプセルに充填していく

20人(男性4人、女性16人、平均年齢67歳)の間質性膀胱炎患者に1日4粒、12週間にわたってそばの芽ぐみを飲んでもらい、試験期間が終わると、排尿日誌や質問票をもとに間質性膀胱炎の症状や生活の質の変化について検証された。

その結果、生活の支障を示す間質性膀胱炎症状スコアが12.1から7.8、問題スコアは9.6から5.8に改善。尿を蓄え、尿意を抑える結果も得られている。排尿日誌をもとにした具体的なデータでは、昼間の排尿回数が12.6回から9.3回へと減少していることがわかった。最大我慢尿量は199.2mlから238.3mlへと改善していた。そのほかの指標においても、そばの芽ぐみが間質性膀胱炎の症状緩和に効果的であることが示唆されている。

通院している間質性膀胱炎患者と接している影山院長によると、試験終了後も「効果を実感したから」といって、そばの芽ぐみを飲みつづけている人は少なくないそうだ。

「間質性膀胱炎の原因はよくわかっていない。ふつうの膀胱炎と間違われることもある。しかも、厚労省が保険適用の治療法として認めているのは通常、入院を伴うもののみ。患者に大きな負担がかかるので、診断をつけられない医師も多かった。機能性食品で治療を気軽に始められるなら、潜在的な患者も含めてたくさんの人が楽になるのでは」と、そばの芽ぐみが間質性膀胱炎の対処法に加わる意義について影山院長は解説する。

一方で、そばの芽ぐみの研究課題は残っている。解明が待たれているのは、間質性膀胱炎の症状緩和に効果を示すメカニズムだ。ケルセチンがアレルギーや炎症を抑えることは仮説として有力だが、発酵そばの芽と同様にケルセチンを豊富に含むタマネギを食べることで間質性膀胱炎が緩和された例は報告されていない。「漢方薬のように、食品固有の成分の組み合わせで効果が出ているのではないか」と影山医師は説明する。

そばの新芽。赤い茎にファイトケミカルが含まれている

近年、中高年女性を中心に増加している間質性膀胱炎だが、アメリカには日本とは比較にならないほど多くの患者がいるそうだ。現在、英語論文の投稿準備中という影山院長は、「そばは和食の代名詞。長寿を支えてきた日本の伝統食を活用した研究は、海外からも注目されるはずだ」と、静岡で生産・加工・販売されている発酵そばの芽の研究成果を発信していく。富士宮市の小さな企業の技術が、世界に新たな幸せをもたらすかもしれない。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。