ウンシュウミカンの葉の抗炎症作用が、愛媛大学大学院農学研究科の菅原卓也教授による細胞実験で確認され、2019年12月に国際学会で発表された。活性物質の特定には至っていないものの、水溶性の低分子のオリゴ糖による作用と見られている。廃棄されてきた未利用部位である葉の活用を進め、ウンシュウミカン生産者の所得向上を目指していく。
愛媛県は柑橘類の生産量日本一を誇る。同県で生産されている柑橘類の半分以上は、ウンシュウミカンだ。ウンシュウミカンは生産過剰による価格低迷が続いており、収益の悪化に悩まされている生産者は少なくない。愛媛県では、産学官でウンシュウミカンの高付加価値化に取り組んできた。
愛媛大学大学院農学研究科の菅原卓也教授は、柑橘類の健康機能性について研究している。ミカン果皮に含まれる「ノビレチン」というフラボノイドと、「β-ラクトグロブリン」という乳たんぱく質の組み合わせによって高い抗アレルギー作用が得られることなどを明らかにしてきた。愛媛県内の企業によって研究成果を活かした商品も開発されており、ノビレチンとβ–ラクトグロブリンを同時に摂取できる「Nプラスシリーズ」として、現在10種の商品が流通している。
菅原教授は2017年、未利用部位であるウンシュウミカン葉の研究に着手した。菅原教授によると、「ミカン果樹の剪定時にウンシュウミカンの葉は廃棄処理されている。柑橘類の健康機能について10年以上共同研究をしている伊方サービス(愛媛県西宇和群伊方町、公受弘充社長)から、葉の活用について相談を受けたのが今回の研究のきっかけ」とのことだ。伊方サービスは柑橘類の商品を製造・販売している会社で、ウンシュウミカン果皮を原料とするパウダー・ペースト・チップなどを取り扱っている。
菅原教授は、ウンシュウミカン葉に含まれる水溶成分に抗炎症作用があることに着目して、研究を進めた。「抗アレルギー効果や認知機能改善効果が注目されているノビレチンが、ウンシュウミカンの葉にも果皮と同程度含まれていることを確認した。葉の有効性が明らかになったが、水溶性成分については、これまであまり研究が進んでいなかった。新たな機能性成分の探索を目的として、抗炎症成分の特定を目指している」と、菅原教授は研究の狙いについて説明する。
2019年12月に、菅原教授はウンシュウミカン葉の水溶性成分の抗炎症作用を細胞実験で明らかにし、国際学会で発表した。マクロファージという免疫細胞に過剰な炎症反応を引き起こしてからウンシュウミカン葉水溶性成分を培養液に添加し、24時間後に炎症性サイトカインを測定するという実験だ。溶液の添加濃度は1 mLあたり10、100、500、1000 µgに設定された。
実験の結果、ウンシュウミカン葉水溶性成分の添加濃度が高くなるほど、炎症性サイトカインの産生量が少ないことがわかった。菅原教授によると、「作用メカニズムを検証したところ、ウンシュウミカン葉水溶性成分は、遺伝子の活性化を抑制することで炎症性サイトカインの産生を抑制し、抗炎症効果を示すことが明らかにされた」とのことだ。
ウンシュウミカン葉水溶性成分の抗炎症効果に関する基礎研究と並行して、2019年8月には、ウンシュウミカン葉と緑茶葉にミカン果皮を加えたブレンド発酵茶葉「みかん葉っこう茶」が、愛媛大学農学部の学生との共同開発のもと商品化された。菅原教授、愛媛大学農学部の学生9人、愛媛県、伊方サービス、松南園(愛媛県松山市、村井剛社長)の産学官連携のプロジェクトの成果だ。「日本茶を製造・販売している松南園と学生の力を借りて商品の官能評価を高めた」と、菅原教授は茶の風味にもこだわってきた。
今後は有効成分の特定が課題となる。菅原教授の仮説では、「低分子の糖類であるオリゴ糖による抗炎症作用と見られる」とのことだ。動物実験による作用機序の解明も進めていく。
ミカン栽培に必要な傾斜地での作業は高齢者にとって負担が大きく、収益の悪化も生産者の事業の継続を難しくしている。愛媛県では、耕作放棄されたミカン農地が問題になっている。廃棄されている葉が機能性食品として商品化されれば、ミカン農家の収益は改善され、新しい担い手が見つかりやすくなる。未利用部位の商品化を後押しする研究が、特産地を次世代に繋げる手がかりになるかもしれない。