楠式高濃度DHAで炎症改善!がんの転移・再発、がん悪液質とCRP値

大学発

三重大学医学部の消化管・小児科外科学では、抗炎症作用があるとされる高濃度DHAでCPR値をコントロールする研究が進められている。CRPは、体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりしたときに血液中に増えるたんぱく質だ。CRP値を下げることで、がんの転移・再発、低栄養や体重減少が起こるがん悪液質を防げるかもしれない――。

概要
  • がん患者は、腫瘍部の炎症によりIL-6という炎症性サイトカインが上昇している
  • IL-6が増えると、レゾルビンという抗炎症性脂質メディエーターの濃度が低くなる
  • レゾルビン濃度が低くなると、CPR値は高くなる
  • がんの予後は、CRP値が高いほど悪い
  • 楠教授が研究している高濃度DHAは、レゾルビン濃度を上げてCRP値を下げる
  • 高濃度DHAではがん細胞(大腸がん)の増殖抑制効果も確認された

CRP値が高くなると、がん患者のレゾルビンD1濃度は低くなる

がんの予後は、がんのタイプ(組織型)や手術根治度、リンパ節転移の有無や遠隔転移の有無など、「がんの進み具合」で決まるといわれている。「がんの進み具合」を決定づけるのは、がん細胞の特徴だけではなく、腫瘍に対する炎症反応であることが報告されている。

最近では、がん治療の予後には体内の炎症状態、すなわち「CRP値」が関係していることがわかってきた。グラスゴー大学では、大腸がんをはじめとする腫瘍において、CRP値の上昇とともにアルブミン値低下を伴う症例では予後が特に悪いと報告されている。

CRP値が予後に大きく関わるがんとして、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、食道がん、膵臓がん、肝臓がん、腎臓がん、鼻咽頭がん、子宮頸がん、前立腺がん、卵巣がんなどが挙げられる。

三重大学医学部消化管・小児科外科学教授で、日本大腸肛門病学会の理事長も務める楠正人教授の研究でも、CRP値とがんの予後については同様の結果が得られている。「CRP値の上昇を伴うがん患者では、炎症性サイトカインの一つであるIL-6(インターロイキン‐6)の値が、がん組織と血中で上昇していた。がんの組織から血液中に溢れ出したIL-6の上昇に伴い、CRP値も高くなっていく」と楠教授は解説する。

注目されているのが、EPAやDHAを含むω-3系脂肪酸の代謝産物「レゾルビン」の役割だ。ω-3系脂肪酸は、抗炎症作用、心血管保護作用、脳神経系保護作用などがあることいわれてきた。2009年に発表された論文(ネイチャー誌)では、敗血症モデルのマウスにおいて、レゾルビンがIL-6を低下させることが報告された。なお、レゾルビンは、レゾルビンD(DHA由来)とレゾルビンE(EPA由来)にわけられる。

手術を受けられるがん患者は、病巣を摘出することで血中のIL-6の上昇を抑え、CRP値を下げることができるが、遠隔転移などの理由で根治手術ができない患者は、IL-6やCRP値をコントロールするのが難しい。楠教授は「IL-6とCRP値が高いがん患者は、レゾルビンが低値を示す」という仮説のもと、レゾルビン濃度とCRP値の関係を検討した。

試験では、健康な人と大腸がん患者のレゾルビンDとCRP値を分析した。平均年齢60歳(男性7人、女性3人)の健康な人のグループは、CRP値が全例0.3mg/dl未満、平均0.085mg/dlだったのに対し、平均年齢66歳(男性22人、女性13人)の大腸がん患者の平均値は0.14mg/dlと高く、0.5mg/dl以上の人は10人もいた。このときの大腸がんのステージは、Ⅰが6人、Ⅱが15人、Ⅲが3人、Ⅳが11人。一方のレゾルビンDは、健康な人の中央値が8241pg/mlだったのに対し、CRP値が0.5mg/dl未満、0.5~1.0mg/dl、1.0以上のガン患者さんの中央値は、それぞれ9193、3107、2599pg/mlだった。

DHAとEPAの配合比率を変えながら、大腸がん細胞の増殖抑制効果についても検証された。その結果、DHAの単独投与が最も効果的で、EPAに対するDHAの比率が大きくなるほど細胞増殖抑制効果も有意に高くなり、レゾルビンD1も、高濃度DHAの投与で高い数値を示すことがわかった。さらに、高濃度DHAによってがん細胞によるIL-6産生が抑制されることも明らかになった。

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高濃度DHAとがんの関係について研究を続ける楠教授

高濃度DHAで一週間後にがん患者のCRP値が下がった

三重大学病院では、CRP値が0.5mg/dl以上のガン患者さん10人を対象とした試験を行った。カロリーを統一した食事をとってもらいながら、高濃度DHA(DHA:EPA=9:1)を1日4g(2g×2回)、1週間飲んでもらい、CRP値とレゾルビンD1濃度の変動を追跡するという内容だ。10人中8人のCRP値が下がり、数値の減少率は64.3%。CRP値 が0.5mg/dl未満に下がった人が5人いることもわかった。また、10人中8人でレゾルビンD1濃度の上昇が認められている。

「継続して高濃度DHAをとることで、より効果的な血中レゾルビンD1濃度の上昇が得られると考えられる」と話す楠教授は、「癌患者の予後改善剤」という特許を取得し、地元企業のアイドゥ株式会社(三重県四日市市)と共同で、高濃度DHA商品「メガエール」を開発した。今後は長期的な試験を行う予定だ。

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DHA・EPAの1日推奨摂取量

健常人におけるDHA・EPAの1日推奨摂取量は、日本では1g以上、欧州では5g、米国では3gとされている。CRPが0.5mg/dL以上のがん患者のレゾルビンD1濃度は、健常人と比較して約60%以上減少していることがわかっている。

【リンク】三重大学大学院医学系研究科HP:癌治療における補助栄養剤の開発

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。