大豆には、血圧の上昇を抑える働きのある「ニコチアナミン」という機能性成分が含まれている。宮城大学食産業学部の金内誠教授は、特定の条件で大豆を発芽させることで、ニコチアナミンの合成にかかわる酵素活性が増すことを明らかにした。酵素活性の新たな測定方法も確立され、実験方法の簡便化や測定時間の短縮も実現。一連の研究は、安価なニコチアナミンの生産やニコチアナミン含有量の多い大豆発酵食品の開発に応用できる可能性があるそうだ。
良質なたんぱく質源である大豆や大豆由来食品は近年、健康食品としても注目されている。大豆たんぱく質には脂質代謝の改善作用や血圧上昇の抑制効果などが、大豆イソフラボンには抗酸化作用などがあるといわれている。乳酸菌や酵母といった微生物をはじめ、発酵食品の機能性に関する研究を専門とする宮城大学食産業学部食産業学群フードビジネス学科長の金内誠教授は、発芽大豆の健康機能効果を検証してきた。
「スプラウトと呼ばれる新芽野菜には、発芽によって増えた機能性成分が豊富に含まれている。新芽が機能性成分を蓄えていく過程には、酵素の働きも関係している。酵素をはじめ、海外で麦芽の研究をしていた経験を活かして、2017年ごろからニコチアナミンの合成酵素の研究を続けてきた」と話すのが、金内教授だ。
ニコチアナミンは、S-アデノシルメチオニン合成酵素(SAMS)とニコチアナミン合成酵素(NAS)の働きを受けて、L-メチオニンというアミノ酸から生合成される合成中間体。血圧上昇にかかわる「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」の阻害物質として知られており、高血圧マウスにニコチアナミンを投与する実験では、血圧上昇抑制作用が得られたことが報告されている。
豆類にはニコチアナミンが含まれており、ACE阻害活性はニコチアナミン含量と相関することは国内における先行研究で確認されていた。金内教授によると、「植物中に含まれているニコチアナミンは微量で、成長に伴う成分や含有量の変動など、明らかになっていないことは少なくなかった。ビールの製造で使われている麦芽製造技術を用いて、試料とした大豆中の酵素が発芽によってどのように変化するか検証した。麦芽を発芽させる研究の横展開のイメージだ」とのことだ。
大豆種子は、塩ストレス条件下で発芽させるとACE阻害活性が増すことが報告されている。金内教授は、1〜10%の範囲で濃度の異なる塩化ナトリウム水溶液にて大豆(トヨマサリ)を発芽させた後、発芽1日め、2日め、3日めの発芽大豆のSAMS、NAS、ニコチアナミンを測定した。「ATPという化合物を指標としてSAMS活性を求め、NAS活性はニコチアナミンの増加量をもとに算出した。その結果、5%濃度溶液かつ発芽2日めで、活性は最大となった。ニコチアナミン量は、大豆の8倍に増えることがわかった」と金内教授は解説する。
塩ストレス条件下での発芽によってSAMSが活性化することで、肝機能や変形性関節症の改善効果があるS-アデノシルメチオニンが増えることも確認された。「ほかのスプラウトと同様、機能性成分の種類や量は発芽の条件で変わっていくようだ」と金内教授は振り返る。
一連の研究では、新たな酵素活性の測定法も見出された。SAMS活性測定におけるマイクロプレートを用いた比色法による活性測定法が確立され、実験方法の簡便化、測定時間の短縮につながったという。金内教授」によると、「今回の研究で、SAMSの分子量をはじめ、発芽に最適な温度やpHを確認することができた。ニコチアナミンは現在、10㍉㌘あたり10万円と高値で販売されている。研究が進めば、ニコチアナミンを安く安定的に作れるようになるかもしれない。ニコチアナミン含有量の多い味噌や醤油が開発される可能性もある」とのことだ。
金内教授は、産学の地域連携にも力を入れている。これまでに「純米大吟醸」や「いちごワイン」が開発された。発芽大豆の新商品開発も待ち望まれている。