大阪歯科大学歯学部の戸田伊紀准教授らの研究グループは、水産加工残渣であるウロコから抽出したコラーゲンの活用法について研究を続けている。2018年には、ウロココラーゲンが骨の形成を促進することを動物実験で確認。抜歯後の歯槽骨の弱体化を防ぐ機能性コラーゲンとしての実用化が期待されている。
魚類の加工時に出る頭・骨・皮・内臓といった水産加工残渣は、堆肥として活用されている。それに対し、ウロコの多くは廃棄されているのが現状だ。低い粉砕性と分解性が再利用を妨げている主因となっている。
魚類のウロコは厄介者として扱われがちだが、人間の骨・肌・腱などと同じⅠ型コラーゲンを豊富に含んでおり、人工骨や人工角膜といった生体材料に応用する研究が国内外で進められている。大阪歯科大学歯学部解剖学講座の戸田伊紀准教授は、ウロコから抽出したコラーゲンについて研究している一人だ。
「骨形成を促進する哺乳類由来のコラーゲンスポンジは、抜歯後の局所止血材として使用できるほか、歯槽骨の弱体化を引き起こす骨吸収の防止にも役立つという報告がある。安全な素材だが、一部では感染症のリスクが指摘されている。細胞増殖能と細胞分化能が高いとされているウロココラーゲンの機能性や安全性を検討してきた」と話す戸田准教授は2018年、ウロココラーゲンの骨形成の促進効果を動物実験で検証した。
動物実験は、頭頂部の骨に円形の骨欠損(直径8mm、深さ2mm)が形成されたラット28匹を対象とした。ウロココラーゲンスポンジ(多木化学社製)で骨欠損を補う14匹と骨欠損を放置したままの14匹の2群に分類し、それぞれの群を4週間の飼育後に標本にする8匹、8週間の飼育後に標本にする6匹のグループにさらにわけ、解剖後に頭頂部の骨を三次元解析して結果を分析した。
同じ飼育期間のグループの結果を比較したところ、ウロココラーゲンスポンジで補われたグループは、骨欠損グループよりも新生骨の面積割合・体積が大きかった。一方、新生骨の密度は、ウロココラーゲンスポンジで補われたグループは、骨欠損グループよりも4週間の飼育期間の場合は低かったが、8週間になると高くなった。
「ウロココラーゲンスポンジが骨形成を促進した結果と考えられる。4週間の飼育期間では、ウロココラーゲンスポンジで補われたグループのほうが新生骨の密度が低かった。にもかかわらず、8週間になると高くなったのは骨を造るスピードが早くなったことと関係している」と、戸田准教授は実験結果を解説する。
骨形成の促進効果は、哺乳類由来コラーゲンよりもウロココラーゲンのほうが優れている可能性も見えてきた。戸田准教授によると、「ウロココラーゲンの骨形成の促進効果については、哺乳類由来コラーゲンと比較検証を進めているところだが、歯科医療で使われている哺乳類由来コラーゲンの骨形成の促進効果はそれほど高くないので、ウロココラーゲンの効果に注目している」とのことだ。
魚類の可食部位は50〜70%程度とされており、国は環境負荷の観点から水産加工残渣のリサイクルを推進している。しかし、多様な魚種があり、原料の腐敗も早いため、ウロコを含む水産加工残渣のリサイクルは容易ではない。一方、咀嚼機能の維持は健康寿命の延伸に不可欠だ。ウロココラーゲンが歯科医療に活用されれば、高齢化が進む日本において水産加工残渣の処理が進むきっかけになるかもしれない。