北里大学発ベンチャー企業の株式会社Vino Science Japan(VSJ)は、未利用農産物を活用した健康食品の製造販売を手がけている。同社の代表を務めているのが、北里大学元教授の熊沢義雄社長だ。生体防御学や生薬成分の免疫薬理作用の研究を専門とする熊沢社長は長年、”皮”の機能性を研究してきた。タマネギなどの皮には、体内の炎症に抵抗する働きがあることがわかっているという。
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同社の主力商品の一つが、ぶどうファンタジーだ。ぶどうファンタジーは、山梨県にある中央葡萄酒の契約農家で栽培されている甲州種ブドウの果皮と種子をミックスして細かく砕いて得られる乾燥粉末を、乳酸菌で発酵処理したエキスが主原料として配合されている。“発酵ぶどうミクス”と呼んで愛飲している人もいるそうだ。
数十種類から厳選された植物性乳酸菌によって発酵を進めたぶどうファンタジーには、ポリフェノールや食物繊維のほか、オレアノール酸やカテキン類が豊富に含まる。熊沢社長は「炎症性サイトカインを伴う病気の予防・改善が期待できる。白ワイン用のブドウの果皮と種子、かつ乳酸発酵というひと手間がないと、抗炎症効果は得られないことがわかってきた」という。実際、熊沢社長らによる試験では、炎症の度合いを示す「TNF‐α」という数値の改善が確認されている。
基礎的な試験を重ねた後、熊沢社長は大学病院やクリニックの医師と連携して症例収集にも奔走している。症例数は十分とはいえないものの、難病を含む病気の改善が見られている。いくつかの事例を紹介したい。
大阪の大学病院では主治医の協力のもと、潰瘍性大腸炎の患者にアサコール、ビオフェルミンといった薬と併用する形で、朝・昼・晩の食後に乳酸菌発酵甲州種ぶどう果皮・種子エキスを675mg(ぶどうファンタジー3粒)ずつ飲んでもらったところ、1ヵ月ほどで下血が止まり、腹部の違和感も治まったという報告を受けたという。また、再燃したクローン病患者では軟便の改善が見られたそうだ。
「驚いたのが間質性肺炎に対する効果だ。ステロイド治療を受けていた特発性間質性肺炎の患者については、治療と併用することで、KL-6値などの数値や息切れといった症状が改善した。カゼなどが引き金となって症状が悪化する急性増悪を防いだり、薬の量を減らして生活の質を高めたりする効果はあると考えられる」と熊沢社長は分析している。
ブドウの機能性については、間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)で共通して生じる肺線維症の動物モデルの改善例などが海外からも研究成果が発表されている。ブドウ種子エキスを投与したところ、炎症性細胞の浸潤、炎症性サイトカイン、コラーゲンに特徴的なアミノ酸の沈着が抑制され、肺機能も改善したというものだ。肺の炎症にかかわるMMP-9という酵素やTGF-βというサイトカインの発現が抑制され、肺線維症の患者のQOLの改善に役立つ可能性が示唆されている。
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世界じゅうで発表されているブドウ成分の学術情報の要約は、VSJ社のホームページで随時更新されている。情報収集や原稿の取りまとめをしているのは、もちろん熊沢社長だ。
なお、甲州種は1000年以上の歴史を持つ日本固有の品種として知られている。2010年には、『OIV』という国際的な機関にも品種登録された。また、中央葡萄酒は産地証明つきのワインの販売を日本で初めて行ったメーカーでもある。ブドウの果皮と種子という未利用農産物の今後の研究に注目したい。