千葉県が生産量の約8割を占める国産落花生。東北地方ではほとんど栽培されていない農作物だが、山形県金山町では現在、落花生の特産品化を目指すプロジェクトが産学官で推進されている。2018年10月には、初年度の山形産落花生が収穫された。一方で、“高度リサイクル化”というキーワードで、大量に廃棄されている外国産落花生の渋皮の活用法を模索する動きもある。最近の研究では、渋皮エキスに抗糖化作用があることがわかってきた。
「山形市には大きな豆菓子メーカーがある。渋皮つきで落花生を輸入している数少ない企業だ。規模を考えると国内随一かもしれない。鮮度や味をよくするためだが、加工するときに渋皮は廃棄物となってしまい、リサイクルを考えていく必要があった」と話すのは、落花生の渋皮抽出物について研究している山形大学地域教育文化学部の小酒井貴晴准教授だ。
小酒井准教授によると、熱水に漬けて加工する落花生から3.6㌧の渋皮焙煎カスと2000㌧の「渋皮漬廃液」が毎月廃棄されているという。「渋皮はとても軽いものだ。数㌧と考えると、相当な量であることがわかる。渋皮はブタやウシなど家畜のエサとして活用されているものの、漬け込んだ水の利用法はなかった。実は、渋皮には健康成分が豊富に含まれている。そこに目をつけた」という小酒井准教授。2014年、日本大学生物資源科学部の松藤寛教授とタッグを組み、渋皮の新たな活用法の研究に乗り出した。
落花生の渋皮には、抗酸化作用や整腸作用のある「プロアントシアニジン」というポリフェノールが含まれている。「ブルーベリーやラズベリーなどに含まれている物質で、老化の原因となる糖化を抑制する働きもあることがわかってきた。糖とたんぱく質が結合していき、血管や臓器にダメージを与えてしまうのが糖化だ。糖化反応によって生成されるAGEsが、肌や骨、目や腎臓に悪い影響を与えている。落花生の渋皮の抗糖化作用を検証することにした」というのが、小酒井准教授らの研究の狙いだ。
成分分析を進めていった結果、ブルーベリーやラズベリーに含まれているプロアントシアニジンがtypeBであるのに対し、落花生の渋皮にはtypeAが多いことが明らかになった。小酒井准教授によると、「食品分析学が専門の松藤教授の功績だが、画期的な分析法が開発・確立され、これまで一括りで語られることの多かったプロアントシアニジンをはじめ、正確に含有成分を測定できるようになった。機能効果を比較した結果、抗糖化作用はtypeBよりもtypeAのほうが強いという発見に至った」とのことだ。
成分分析などの基礎試験を終えた後、糖尿病のモデルマウスを使った実験が実施された。落花生渋皮エキスをエサに混ぜ、試験前後の糖化度の変化を比較するという内容だ。その結果、血液中のカルボキシメチルリジン(CML)という物質が2週間で減少することがわかった。
「健康なマウスでは変化が見られなかったのに対し、糖尿病群でのみ、CMLの改善が認められた。高血糖にさらされると、糖化のスピードは増すことがわかっている。今後も検証を重ねていく必要があるが、渋皮エキスは糖化速度を緩やかにできるのではないかと期待している」と、小酒井准教授は解説する。
生物学的な評価を終え、落花生の渋皮焙煎カスと渋皮漬廃液から効率的に、そして高純度でプロアントシアニジンを抽出する技術、光や温度管理など、安定的な保管法も確立された。
「未利用資源や廃棄物の有効活用といったリサイクルの高度化と生活習慣病の予防・改善を両立することはできるはずだ。新たな機能性素材としての実用化向けて研究を続けていきたい」と小酒井准教授は話している。量産・安定供給を考慮すると、山形県産落花生の渋皮を活用することは容易ではないかもしれないが、新たな特産品の開発と高度付加価値化を目指す取り組みに注目が集まっている。