現在、日本の死因3位となっているのが肺炎だ。肺炎の中でも高齢者がかかりやすのが、誤嚥性肺炎といわれている。「日本一の健康長寿県構想」を掲げる高知県では、地元の特産品を使って誤嚥性肺炎の予防・改善法について研究を進めている。
高知県は日本一のショウガ王国だ。ショウガの国内生産量のほぼ半数を高知県が占めている。高知県では医商連携で、香辛料や生薬として世界じゅうで利用されてきたショウガの機能性研究や製品開発を進めてきた。科学技術振興機構のA-STEP、高知県産学官連携産業創出研究事業の支援を受けている注目の取り組みだ。
ショウガには「ジンゲロール」「ショウガオール」といった機能性成分が含まれている。これらは、トウガラシの辛味成分として知られる「カプサイシン」と似た構造を持っている。カプサイシンには、「サブスタンスP」という神経伝達物質を増やす働きがある。サブスタンスPは嚥下機能のカギを握る物質だ。減少すると、嚥下反射やセキ反射が鈍くなる。サブスタンスPは加齢のほか、認知症やパーキンソン病などが原因で減少する。その結果、唾液や食べ物などが気管から肺に落ちてしまい、誤嚥性肺炎が生じる。
サブスタンスPを増やすカプサイシンに似た構造を持つショウガの機能性成分
高知大学医学部では、ジンゲロールやショウガオールを含むショウガエキスが、カプサイシンと同じようにサブスタンスPを増やすという仮説のもと、試験を行った。ショウガエキス1%(ショウガオールとして2μg、ジンゲロール類として36μg)を含む粒食品を使った試験では、ショウガエキスが入っていない偽の粒食品を飲む20代と50代、ショウガエキス入りの粒食品を飲む50代の3つのグループに分けて行われた。
その結果、偽の粒食品を飲んでいた50代のグループはサブスタンスPの量が3つのグループで最も少なかったのに対し、ショウガエキス入りの粒食品を飲んだ50代は、20代と同じ量を維持できていることがわかった。食事の15分前に、ショウガエキス入りの粒食品を飲むのが効果的であることも突き止めた。
さらに、25~40歳、41~64歳、65歳以上と、年齢ごとにグループを3つに分けて試験は行われた。ショウガエキス入りの粒食品を飲んだ結果、すべてのグループでサブスタンスPは増えていた。
ただし、嚥下反射やセキ反射が低下している高齢者が粒食品を飲むのは容易ではない。また、寝ているときに唾液が気管から肺に落ちて起こる不顕性誤嚥も問題となっている。そうして問題を解決して実用的なものにするために研究チームは現在、ショウガエキスを練り込んだ軟膏を肌に塗る方法について検証を進めています。最新の試験では、ショウガエキスの塗布によって有効成分が肌から体内に吸収され、サブスタンスPも増えることが報告されている。