柿渋の腸内環境改善作用を確認 潰瘍性大腸炎の予防・治療、寛解維持への応用目指す

地域発

柿タンニンが潰瘍性大腸炎の改善に役立つかもしれない──。奈良県立医科大学の伊藤利洋教授らは、潰瘍性大腸炎のモデルマウスを用いた実験で、高純度の柿タンニンの経口投与によって、免疫細胞の過剰な働きや悪玉菌の増殖が抑制されることを確認。大腸粘膜における炎症の軽減効果が得られることも明らかにした。一連の研究成果は2021年3月、英国の科学誌にオンライン掲載された。さらなる研究を進めて、潰瘍性大腸炎の予防・治療や寛解維持への柿渋の応用や、腸内環境改善を謳う機能性表示食品の開発を目指していく。

奈良県は、日本有数の柿の産地として知られている。収穫量は国内最多の和歌山県に次ぐ第2位で、6月下旬〜9月中旬が出荷時期となるハウス柿に限定すると、日本でトップの柿の生産量を誇る。毎年およそ30,000tの柿が収穫されており、刀根早生、平核無、富有、御所などの品種が奈良県から出荷されている。

抗酸化作用や抗炎症作用のある柿タンニンの機能性研究が進められている

奈良県では、柿の機能性研究も積極的に進められている。注目されている機能性成分の一つが、柿渋に含まれている柿タンニンだ。「タンニンはポリフェノールの一種で、お茶やブドウに含まれている渋み成分である。柿渋は古くから革や衣服の防虫、防水や染色に利用されてきた。抗菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗酸化作用などの機能性が見出されており、近年、さまざまな疾患への応用が期待されている」と話すのは、奈良県立医科大学免疫学講座の伊藤利洋教授だ。

潰瘍性大腸炎に対する柿タンニンの有効性について研究している伊藤利洋教授

伊藤教授は免疫学講座が開設された2014年以降、柿タンニンの生体への機能を研究してきた。先行して研究していた畿央大学から共同研究の打診があったのがきっかけだったという。「呼吸器内科の医師として働いていたため、肺への影響に興味を持った。実験では、柿タンニンの抗菌作用とマクロファージの活性化を抑制する作用が確認された。マウスを用いた動物実験では、罹患率が近年上昇している非結核性抗酸菌感染による肺炎の改善効果が認められ、研究成果は2017年に米国の科学誌『PLoS One』に掲載された」と、伊藤教授は振り返る。

柿タンニンは、腸内で発酵して抗酸化活性を示すことがわかっている。肺における抗炎症作用を確認した伊藤教授は、消化管の慢性炎症を引き起こす潰瘍性大腸炎に対する柿タンニンの効果の検証に乗り出した。2016年のことだ。寛解と再燃をくり返す潰瘍性大腸炎は難病に指定されており、近年、患者数が増加している。日本における潰瘍性大腸炎の患者数は20万人以上と推定されており、指定難病では最も多い病気となっている。

伊藤教授によると、「潰瘍性大腸炎の原因のすべては明らかになっていないが、腸内細菌の関与が一因とされている。腸内細菌のバランスが崩れることで免疫系の制御が効かなくなくなり、消化管で過剰な炎症が生じるというものだ。実際に潰瘍性大腸炎の患者では、Enterobacteriaceae科の悪玉菌が多いことが報告されている」とのことだ。潰瘍性大腸炎では内科的な治療が一般的であるものの、薬物療法の効果が得られないことも少なくない。そのため、新たな予防法や治療法の開発が望まれているという背景がある。

実験中の伊藤利洋教授。柿タンニンには新型コロナウイルスに対する不活化効果があることも報告している

伊藤教授が行った実験では、「奈良式」高速抽出技術を用いて高純度に抽出した柿タンニンを使用。通常のエサを与えるマウス(通常エサ群)と、柿タンニンを混ぜたエサを与えるマウス(柿タンニン群)のグループに分け、28日間飼育した後、マウスにデキストラン硫酸ナトリウム (DSS) という化学物質を投与することで潰瘍性大腸炎の症状を誘発し、両グループにおける血便・便性状スコア(DAI)、大腸の長さ、大腸における炎症の状態、Enterobacteriaceae科の細菌群が比較された。

その結果、柿タンニン群は、4日目・5日目・6日目のDAIスコアは通常エサ群よりも有意に低く抑えられており、大腸の短縮や炎症も軽減されていることがわかった。伊藤教授は、「大腸の長さが保たれているのは、炎症に伴う腸粘膜の萎縮が少なかったことを意味する」と解説する。さらに、腸内細菌の状態にもグループ間の違いが見られた。通常エサ群と比較して、柿タンニン群ではEnterobacteriaceae科の細菌群の増加が有意に抑制されていることがわかった。

一連の研究成果は2021年3月、英国の科学誌『Scientific Reports』にオンライン掲載された。「今回の研究では、免疫細胞の活性化や悪玉菌の増殖を抑制する効果が示唆された。ただ、炎症の改善によって悪玉菌が減少したのか、悪玉菌の減少によって炎症が改善したのかなど、検証すべきことはまだ残っている。研究を続けて潰瘍性大腸炎の予防・治療や寛解維持への柿渋の応用や、腸内環境改善という切り口の機能性表示の取得を目指していきたい」と、伊藤教授は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。