緑茶葉の機能性成分“エピガロカテキンガレート”が骨再生を促進!国産の再生医療用材料の開発目指す

地域発

大阪歯科大学中央歯学研究所の本田義知准教授、京都工芸繊維大学大学院の田中知成准教授らは、緑茶葉に含まれるカテキンの一種「エピガロカテキンガレート(EGCG)」の研究を進めている。共同研究により開発したEGCG結合ゼラチンスポンジを使った動物実験では、骨再生効果が確認された。本田准教授と田中准教授は、“再生医療用材料としての茶”という新たな用途の開発を目指していく。

緑茶葉は、ツバキ科の常緑樹であるチャノキの葉から作られる日本茶の原料である。現在、日本における緑茶葉の年間の生産量は約80,000t、作付面積は44,000haと報告されているが、近年、いずれも減少傾向が続いている。背景には、清涼飲料水やコーヒーなど多様な飲み物の普及があり、各地の生産者やメーカーは高度付加価値化による新たな需要喚起、海外を含む販路拡大などに力を入れてきた。

大阪歯科大学中央歯学研究所の本田義知准教授と京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科バイオベースマテリアル学専攻の田中知成准教授は、骨再生効果の研究で緑茶葉の需要拡大を後押ししている。両准教授が注目している成分が、「EGCG」というカテキンだ。

「顎顔面に存在する虫歯、歯周病、ガンなどで失われた骨欠損部位の骨再生を研究テーマの一つとしている。大学が宇治茶の産地である宇治市の近くにあり、2012年ごろに緑茶葉に多く含まれるEGCGを骨再生に活用できないかという着想を得た」と振り返るのは、本田准教授だ。調べたところ、試験管での実験では骨を作る骨芽細胞をEGCGが活性化するという報告が見つかったものの、生体内で骨を再生しうる研究が当時は乏しかったという。

本田義知准教授と田中知成准教授が開発したEGCG結合ゼラチンスポンジ

2013年、研究に加わったのが田中知成准教授だった。本田准教授と手を組むと、二人は生体内でEGCGの貯留性を高めうる「EGCG結合ゼラチンスポンジ」の開発に着手。2015年には、動物実験でEGCG配合ゼラチンスポンジの骨再生促進効果を明らかにした。その後、EGCG配合ゼラチンスポンジは改良された。「真空状態で加熱することでスポンジの強度が増して操作性が上がるとともに、体内で細胞の足場として機能する期間も長くなる。効果の向上が期待できると考えた」と、本田准教授は狙いを解説する。

2017年、改良版EGCG配合ゼラチンスポンジの効果を検証するために、ラットを用いた実験が行われた。頭頂部の骨に直径9mmの穴を開けられたラットは、欠損部を残した群、欠損部に真空加熱処理したゼラチンスポンジを移植する群、EGCG結合ゼラチン(合成時にEGCGはゼラチンに対し0.07 mg:100 mgの比で配合)を移植する群、真空加熱処理したEGCG結合ゼラチンスポンジ3種(EGCGを0.07 mg、0.7 mg、6.7 mgで配合)をそれぞれ移植する群の計6群に分けられた。

4週間の飼育後、ラット頭頂部の骨欠損部の骨の量と密度が測定された。その結果、欠損部を残した群や、真空加熱処理したゼラチンスポンジを移植した群と比較すると、真空加熱処理したEGCG結合ゼラチンスポンジを移植した3群の骨量は増えていた。EGCG結合ゼラチンスポンジを移植した群について真空加熱処理の有無で比べると、骨量が多かったのは真空加熱処理後のほうだった。真空加熱処理後のEGCG結合スポンジを移植した3群で比較すると0.07mg配合の群が最大の値で、配合量が増えるほど骨量は減少していた。

新生骨の量と密度が増した。今後はさらにEGCG結合ゼラチンスポンジの最適条件を探っていく

骨密度は、真空加熱処理したゼラチンスポンジとEGCG結合ゼラチンスポンジを移植した群は同等の値だった。骨欠損内の骨塩量は、3群を比べると骨量同様、EGCGを0.07 mg配合した群で最も高く、配合量が増えるほど低くなった。

本田准教授は、「その後の研究も踏まえると、真空加熱処理したEGCG結合ゼラチンスポンジは体内に長くとどまって骨芽細胞や周囲の細胞に働きかけている。さらに患部の炎症・酸化状態の軽減、あるいはリン酸やカルシウム濃度の変化など細胞外環境調節機能を持つことがわかった。一方、骨再生の促進効果に最も有効なEGCGの量などをさらに検証する必要がある」と解説する。より信頼性が高く安全な医療材料を開発するために現在、両准教授らは最適なEGCG濃度のほか、詳細な骨再生メカニズムなどの検証を行なっている。

「再生医療の素材開発は検証すべきことが多岐にわたり、たくさんの実験が必要となる。苦労は多いが、緑茶葉を使った骨再生材料ができれば地域や茶業の助けにもなるはずだ。抗炎症・抗酸化などの機能を持つEGCG結合ゼラチンは、形状の変化が容易で骨再生材料以外の医療用材料への応用も可能であり、さまざまな企業と共同研究できればと考えている。幅広い応用に向けて、試行錯誤を重ねていきたい。また、本研究は多くの先生方、院生、事務の方々に有形無形でご協力いただいている。あらためて感謝の気持ちを伝えたい」と、両准教授は最後に話してくれた。茶の特定保健用食品や機能性表示食品が身近なものになる中、両准教授はEGCG結合ゼラチンを医療現場や社会に届けるために研究を続けている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。