馬路村のユズ果汁で腸内の乳酸菌が増加!腸内環境改善を柱に健康をサポートしていきたい 高知大

地域発

高知大学医学部の溝渕俊二特任教授は、ユズの健康効果の解明を進めている。ユズ種子オイルの塗布による乾燥肌・乾皮症への効果や経口摂取による抗酸化効果などが、これまでに報告されてきた。最新の研究では、ユズ果汁による腸内環境の改善効果が明らかになりつつある。健康の維持・増進をキーワードに、価格低迷が続く加工用ユズの高度付加価値化を推進していく。

高知県は日本一のユズの産地

日本一のユズの生産量を誇る高知県では、約6割のユズが加工用として出荷されている。他県産や外国産との競争激化によって、加工用ユズの価格に影響が及んでいる。生産者の経営状況を改善するために、高知県では産学官でユズの付加価値向上に取り組んできた。

機能性という切り口で高度付加価値化を後押ししているのが、高知大学医学部の溝渕俊二特任教授だ。2006年以降、溝渕特任教授は馬路村農業協同組合(高知県安芸郡馬路村、東谷望史組合長)と連携しながら、加工の過程で廃棄されてきたユズの種子から抽出したオイルの機能性について研究してきた。これまでに、皮膚の炎症を抑える働きやアディポネクチンを増やす働きなどが報告されている。

溝渕特任教授は2017年、ユズ果汁の機能性の解明に乗り出した。ユズ果汁の機能性研究は、全国で生産されているウンシュウミカン果汁に後れを取っていたからだ。「ユズ果汁は苦く酸っぱい味で知られている。その正体は、腸の働きをよくする作用のある有機酸だ。ユズ果汁に豊富な有機酸と腸内細菌叢の関係を検証したいと考えた。具体的には、便秘の改善にも役立つのではないかという仮説を立てた」と、溝渕特任教授は振り返る。

溝渕特任教授は、マウスを用いた実験でユズ果汁の腸内環境改善作用を検証した。マウスは、水を与える4匹/ケージ×4、ユズ果汁5%を含有する水を与える4匹/ケージ×4の2群に分けられ、自由に飲水できる環境で4週間飼育された。なお、マウスには水を与えるほかにも通常のエサを食べさせた。

ユズ果汁の摂取で乳酸菌が増えた(溝渕特任教授提供)

投与開始前、投与開始から1週間後・2週間後・4週間後の計4回、マウスの糞便を採取して便中の乳酸菌数を調べた結果、ユズ果汁摂取群の糞便の乳酸菌数は、投与開始前と比べて投与開始1週間後に約7倍、2週間後に約8倍、4週間後に約22倍と増加していた。一方、水摂取群では乳酸菌数は変化しなかった。溝渕特任教授は、「乳酸菌の増加は腸内環境の改善を意味する。糞便の量もユズ果汁摂取群のほうが多かった。ユズ果汁の整腸作用、便通改善効果を確認できた」と解説する。

2019年12月には、共同研究の成果としてユズ果汁とβ-グルカンを配合したスティック型ゼリー「ゆずちゃんゼリー」が馬路村農業協同組合から発売された。ユズ果汁と水溶性食物繊維の相乗効果を期待した商品規格となっている。

ユズ果汁の腸内環境改善作用は、便秘以外の症状改善にも役立つ可能性を秘めている。溝渕特任教授によると、「近年、腸内細菌叢とアレルギー疾患・糖尿病・脂質異常症・肥満症・認知症など、各種疾患との関連が多数報告されている。腸内環境の改善によるさまざまな疾患の予防効果が期待される。ユズ果汁が乳酸菌数を増加させるとわかり、研究の広がりが見えてきた。まずはユズ果汁の腸内環境改善作用をヒト試験で検証していきたい」とのこと。高知大学医学部附属病院などの病院食として、ゆずちゃんゼリーを導入する計画もあるそうだ。エビデンスの蓄積は、ますます重要となる。

共同研究の成果として開発された「ゆずちゃんゼリー」

高知県のユズ生産者は高齢者が多く、労力が必要となる青果用ユズの生産は厳しさが年々増している。高知県にとって、ユズの付加価値向上は重要課題とされている。溝渕特任教授らは、健康効果をベースとして高知県産ユズのブランド化を進めていく方針だ。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。