コメ由来ペプチドが睡眠ホルモン合成酵素を増強!多くの日本人が悩む睡眠障害改善を目指す 岡山県

地域発

コメ由来ペプチドが、睡眠障害の改善に役立つかもしれない。岡山県農林水産総合センター生物科学研究所の畑中唯史所長は2018年、コメ由来ペプチドの睡眠ホルモン合成酵素の増強作用を細胞実験で明らかにした。グルタミン酸が連なったペプチドによる作用だ。近年、睡眠障害に悩まされている人は増加している。消費量の減少が続くコメが、機能性食品原料として再評価されつつある。

現在、日本人の9人に1人が睡眠障害を抱えているといわれている。睡眠障害はうつ病や認知症といった精神疾患との関連も指摘されており、2003年に始まった認定医療機関制度など、国による対策が進められている。ストレスが引き金となる不眠も多く、副作用のない睡眠障害の改善法に対するニーズは国内で高まりつつある。

岡山農林水産総合センター生物科学研究所の畑中唯史所長は、就実大学薬学部の坪井誠二教授とともに食品由来成分の睡眠障害改善効果を2010年から研究している(当時は専門研究員)。「2010年、酵素分解された米ぬかに、睡眠ホルモン合成酵素のセロトニン–N–アセチルトランスフェラーゼ(NAT)を増強する作用があることを明らかにした。酵素分解された米ぬかに含まれるペプチドによる作用だが、事業化するには製造コストが高すぎた」と、畑中所長は当初の課題を振り返る。

岡山農林水産総合センター生物科学研究所の畑中唯史所長

コストの課題を乗り越えるために、畑中所長が注目したのがコメ由来ペプチドだった。コメ由来ペプチドは、オリザ油化(愛知県一宮市、村井弘道社長)によって開発された機能性食品素材だ。畑中所長は、「2015年、酵素分解された米ぬかに含まれるペプチドとコメ由来ペプチドの性質を比較していくことにした。コメ由来ペプチドの体脂肪減少効果は報告されていたが、睡眠障害改善効果は検証されていなかった」という。

2018年、コメ由来ペプチドのNAT増強作用がヒト細胞を用いた実験で検証された。コメ由来ペプチド溶液を添加した培地と何も添加しない培地で24時間かけて培養した細胞の、NAT活性を測定するという実験だ。添加するコメ由来ペプチド溶液の濃度は、1mlあたり2.5 mg・5 mg・10mgに設定された。

その結果、細胞のNAT活性は、何も添加しない培地よりも1mlあたり10mgの濃度でコメ由来ペプチド溶液を添加した培地は有意に高い値だった。また、濃度が1mlあたり2.5mgまたは5mgでも、有意差はないものの何も添加しない培地よりもNAT活性は高まる傾向があった。畑中所長によると、「作用に強く関係しているペプチドを詳しく調べると、グルタミン酸が連なった構造であることがわかった。有効成分と作用機序を確認できたので、機能性表示の取得を目指してヒト試験を進めていきたい」とのことだ。

日本人の主食であるコメの消費量は、食の多様化に伴い年々減少している。日本の農地の約4割が水田とされており、コメの消費量の落ち込みは食料自給率低下の原因ともいわれている。コメ由来ペプチドの睡眠障害改善効果が明らかにされれば、健康食品原料という新たな需要が生まれる可能性がある。健康機能性の観点でコメの価値が見直されつつある。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。