加工用米の生産が推進される中、長野県立大学の小木曽加奈准教授は発芽玄米酒粕の健康機能性を研究してきた。これまでに、バリンとプロリンの結合したバリル-プロリンというジペプチドによるACE阻害活性などが明らかになっている。高血圧対策としての用途のほか、発芽玄米酒粕の免疫賦活作用についても検証が進められている。
日本人の主食であるコメの消費量は、食の多様化に伴い大きく減少している。コメの消費量が減少した背景には、パン食の普及がある。1人あたりのコメの年間消費量は、1962年には約118.3kgだったのに対し、2018年には約54.2kgと半減した。コメの消費量の低下は食糧自給率の低下に繋がるため、国は消費拡大に取り組んでいる。消費拡大の施策の一つが、2019年に打ち出した加工用米の生産推進だ。
長野県立大学健康発達学部の小木曽加奈准教授は、発芽玄米酒の生産過程で出る酒粕の健康機能性について2010年から研究している。「信州大学繊維学部の岡崎光雄名誉教授から、発芽玄米酒を作る過程で廃棄されている酒粕の利用法について相談を受けたのが研究のきっかけだった。岡崎名誉教授の実家は酒造を営んでおり、発芽玄米酒を製造していた」と話すのが、小木曽准教授だ。
小木曽准教授が最初に着手したのは、発芽玄米酒粕の添加による食品の品質に与える影響の検討だった。「2014年、発芽玄米酒粕を添加したパンはふくらみとコク味に優れていることが明らかになった。発芽玄米酒粕をパンに添加すると最大で24%ほどの減塩もできた。減塩は高血圧対策として有効だ。おいしくて健康にいいパンができると思い、血圧を上げるACEという酵素の働きの阻害活性についても検証を進めていった」と、小木曽准教授は研究の経緯を振り返る。
2016年、小木曽准教授は発芽玄米酒粕のACEの50%阻害濃度を算出し、発芽胚芽米酒や清酒のACE阻害活性と比較した。その結果、発芽胚芽米酒の50%阻害濃度は1.15mg/ml、清酒は1.55mg/mlだった。一方、発芽玄米酒粕の50%阻害濃度は0.15mg/mlだった。小木曽准教授は、「数値が低いほど、少ない量で効果が得られることを意味する。発芽玄米酒粕のACE阻害活性は、ほかの日本酒類よりも強いことがわかった。発芽玄米酒粕に含まれるバリル-プロリンというジペプチドなどの作用だろう」と解説する。
小木曽准教授は発芽玄米酒粕の機能性解明に意欲的だが、発芽玄米酒粕の調達が課題となっている。「2017年には発芽玄米酒粕の免疫賦活作用を学会発表し、新たな機能性素材としての可能性を示すことができた。2018年に岡崎名誉教授が亡くなられてから発芽玄米酒は製造されていないが、研究用の酒粕は保存しており、今後も研究を続ける方針だ。長野県外の酒造で発芽玄米酒が製造されているとわかったので、手に入れるのにはそちらがいいかもしれない」と、小木曽准教授は話す。
加工用途が限られており、市場規模が伸び悩んでいる玄米。パンの添加剤としての発芽玄米酒粕は、現代日本人の食習慣に合った玄米の新たな加工用途になる可能性がある。発芽玄米酒粕がコメ農家の6次産業化に新たな道を拓くかもしれない。